僧正血統、家の当主で7つ上の姉は皆に優しかったけど、俺にはトクベツ甘かったのは
幼いながらに気付いていて、そしてそのことがとても嬉しくってたまらなかったと記憶している。
というか、今でも嬉しい。
「廉ちゃん」
中学三年、夏休み。
受験勉強のため部屋でひたすら数式とにらめっこをしていたら、大好きな声が窓の外から聞こえて
振り返ると姉が硝子越しに笑っていた。
ガラガラと窓を開けると、姉の顔から下も見えて團服姿なのに
片手には和菓子の包みを持っていた。
「仕事やないん?」
俺はわかってながらも、少し申し訳なくなってそう尋ねたけれど嬉しさが勝って顔が緩む。
姉も俺が来てもらって嬉しいって知ってるから、ニッコリ笑って「内緒やで」と言うのだ。
「錦市場に行ってんけど、美味しそうな饅頭があったんよ。」
巡回中やったけど、と悪戯っぽく笑って俺に包みを渡す姉はそのまま出張所へ向かうから、
いつものように俺は「待っとる」とその背中に言うと「午後から気張らなアカンなぁー」と振り返らずに手をひらひらと振ってくれた。
祓魔師の仕事は楽じゃない。
男の柔兄や金兄だってしんどそうにしているときがある。
なのに姉は俺が「待ってる」って言ったら
いつも以上に頑張って早く仕事を終わらせて来てくれてお喋りに付きあってくれたり、坊達も交えて一緒にお茶したりする。
もちろん申し訳なく思う気持ちもあるけれども、そんな優しい姉が、
俺は大好きなんや。