柔造や蝮と歳の近い家の一人娘はがんばり屋さんや。
最近は魔の物による病が流行ってる中、覚えたばかりのお祓いの剣舞で邪を祓うお手伝いをしてくれている。
まぁ、なんで家だけ妙に神道が混じっているかを語ると長くなるから簡単に言うと、不角の娘と不動王を退治する際に活躍した武道者の息子の子孫やからってとこやな。
家は明蛇にありながらも武道者が全国行脚の旅の際に開いた剣術を伝えてきた家。
魔物が出たときには志摩家率いる錫杖で闘う者達と共に真言を唱える者達の援護をするし、刀を使うぶん僧正血統の中でも群を抜く戦闘技術が伝承されている。
真言はあまり使わない戦闘スタイルやけど、そのぶん剣舞で簡易な結界をはったりお祓いができたりする万能で特殊な家系やった。
お祓いの舞を終えて手拭いで汗を拭っているに「よお頑張ったなぁ」と声をかけると「達磨さま!」とはキラキラした笑みを浮かべた。
皆が病に倒れるなか、家の血を引くとその父親でありわたしの友人であるはピンピンしたまま毎日剣舞で邪気を祓って病の更なる拡散を防いでいた。
しかしそれにも限界があり、日に日に病人は増えていく。
わたしも和尚であるわたしの父も仏への祈りを続けているといえども、先が見えない現状に皆疲弊していた。
そんななか守るべき者の笑顔は何よりも大切に思える。
虎子も、子供たちも病に伏せる今彼女の笑顔だけは何としても守りたい。
「柔兄も、蝮ちゃんも最近元気が無いから、わたしが頑張らなアカンってお父さんがゆうてはったの」
「ほぉか。せやったらわたしも気張らなアカンなぁ」
は一瞬暗い顔をしたけれどもすぐにまた明るい笑顔に戻る。
「ほんま!?達磨さまも居るならぜったいへーきやね!わたし、柔兄と蝮ちゃんにゆうてくる!」
はほんに偉い子や。
元気ある子供はもう自分しかおらんのを知ってるから心配かけないように必死に笑顔でいる。
わたしも他の大人達もが寂しいんも辛いんも知っとるけども、の優しさに甘えて隠れて涙を溢すには気付かないフリを続ける。
何が守りたいや。
結局守られてるんは、守るべき自分達やないか。
なぁ、お父、いつになったらこれは終わるんやろか
空っぽの刀を拝んで、いつかこの願いは仏に聞き入られるんやろうか
わたしは慌てて邪念を払った。
アカン。
わたしまで呑まれてはならない。
わたしはの去った方をしばらく見つめてから、祈りを捧げるべく護魔段へと向かった。
まさかそこで今までの状況を一変させる出逢いがあるとは、思いもしなかったのだ。