小さい頃から遊んでいた蝮ちゃんはひと月ほど前から幼稚園に通うことになった。
わたしはおうちでお父さんに剣技を教わらなければならないから幼稚園には通えない。
蝮ちゃんが幼稚園から帰ってきたらまた遊んだりするけれども最近は柔兄達も一緒だ。
だから気づくのが遅くなったけれども最近の蝮ちゃんは元気がない。
久しぶりに二人で遊んだ今日、わたしは聞いてみた。
「蝮ちゃん、なんかあったん?」
蝮ちゃんは手鞠をつくのをやめた。
「なんかって?」
「・・・わからんけど、げんきないもん。蝮ちゃん。」
蝮ちゃんは手鞠を抱えたまま俯いてしばらくなにかを考え込んでいた。
わたしはじっと蝮ちゃんを待つ。
「は、家のことについて、なにかおしえてもろた?」
「うん!真言つかって刀をよびだすれんしゅうしてんで」
蝮ちゃんはほうか、とつぶやくと、うつむいた。
「蝮ちゃんも、なにかおしえてもろたん?」
「・・・うん。このこらのよびだし方とか」
「!!」
突然現れた蛇(ナーガ)に驚いてわたしは思わず二、三歩後ずさった。
それを見て蝮ちゃんは泣きそうな顔をして蛇をわたしから遠ざけてくれた。
「やっぱり、もこわいやんな・・・」
蝮ちゃんはそのままどこかへ行こうとするからわたしは必死に呼び止めた。
「まって!」
蝮ちゃんは一瞬歩みを止めたけれどもまた、たぶん家へ帰ろうとするからわたしも走って蝮ちゃんの腕に縋り付いた。
「おねがい、もういっかいみせて」
「でも、、ナーガこわいやろ」
蝮ちゃんはわたしの行動が理解できないと戸惑っていたけれども、ここできっとさよならしたら今までみたいに蝮ちゃんと遊べなくなるし、
きっと蝮ちゃんが元気がなかった原因はこれなんだとわたしは確信していた。
「こわいけど、でも、ちゃんとみたい」
だからこそ本心を言った。
突然現れた蛇はとても怖くてびっくりしたけれども、本当は可愛いものが好きで女の子らしい蝮ちゃんが、おそらく大事にしている蛇、ナーガ。
蝮ちゃんのだいじな蛇をもういっかい、落ち着いてみたい。
そのあとどう思うかはわからないけれども、それでもわたしが蝮ちゃんを嫌いにはなるはずがない。
蝮ちゃんはしばらく悩んだあと、そっとわたしにナーガを差し出してくれた。
「・・・ツルツルしてる」
「さわったら、すべすべできもちええねん・・・」
蝮ちゃんはナーガの頭を撫でながら言う。
「かまへん?」
「かまさへん」
チラリと見えてしまった牙にびっくりして思わず蝮ちゃんに訪ねても彼女は今度はしっかりとわたしの目を見て約束してくれた。
だからわたしもそっとナーガのウロコを撫でた。
「・・・わぁっ!すごい!ほんまや!」
その感触を気に入ってわたしは何度もナーガをなでるとはじめは微動だにしなかったナーガもしなやかに胴をくねらせて、その動きの
美しさもわたしは気に入った。
蝮ちゃんもナーガを優しく見ていて、わたしはやっと、蛇への恐怖はなくなっていた。
「ごめんなぁ、ナーガちゃん。でも、ようみたらかわええなぁ」
ナーガはまるでわたしの言葉がわかるかのように目を細めた。
蝮ちゃんの目には薄い水の膜ができていたけれども、わたしがそれに気づいたら蝮ちゃんはさっと立ち上がって
「おそなったらててさまにおこられるし、帰る」とパタパタと走るからその背中にわたしは慌てて声をかけた。
「また遊ばせてね!」
蝮ちゃんは立ち止まってでもこちらは振り向かずに小さな声で訪ね返した。
「・・・ナーガと?」
「蝮ちゃんとナーガ!りょうほう!」
「はよくばりやなぁ。」
蝮ちゃんは呆れたように振り返ってふわりと笑った。