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「俺らが今おるこの世界“物質界”の他にももうひとつ、“虚無界”ゆう世界があって、さっきに怪我させたあれは、悪魔ってゆうて、その虚無界のもんやねん。」
「…げへな?…この小さいのも悪魔?」
「おん。これは魍魎ゆう腐の王に属する最下級の悪魔や。」
わたしの世界が広がった日、わたしを助けてくれた人が見えるようになった新しい世界を案内してくれた。どこを向いても、恐ろしい悪魔が目にはいるのは怖くもあったけれども、すこしわくわくしたのも事実。
「…お兄さん達は、悪魔をやっつけるの?」
「せや!俺らは祓魔師。悪魔に対抗するための力をもっとる。」
見るからに悪の悪魔を倒すという彼等は、ヒーローだった。
「わたしも!わたしも、えくそしすとになりたい!」
お兄さんはそんなわたしの頭を撫でて、
「もし、大きくなってもまだ祓魔師なりたいおもっとったら…」
そして、幾度めかの春
聖十字学園の門の前にわたしは立つ。
入学式も滞りなく終わって教室へと向かう。校舎は西洋の教会のような厳かな造りで、新入生の浮き足立った様子とは対照的だ。まわりを見ながら歩いていると教室に着いたのは一番遅かったようで、自由席と黒板に書かれたこの教室では一番前の真ん中しか席は空いていなかったのでそこに腰かけてゆっくり辺りを観察した。知っているもの同士で固まる人、1人ポツンと本を読む人、わたしと同じようにキョロキョロとしている人…そして、金のメッシュ?が入ってピアスをいっぱいつけている…隣の席の人。特進科ということもあり、クラスメートは皆真面目そうだっただけに隣の席の男の子は浮いていた。もしかしたらこの席が空いていたのは一番前の真ん中という理由だけでは無いのかもしれないなとかこっそり考えた。やがて先生もやってきて、自己紹介をみんなでして解散。隣の席の彼は京都からやってきたらしく綺麗な京都弁で自己紹介を済ませていたが、目付きがあまり宜しくなくてたまたま目が合った大人しそうな女の子が半泣きになっていた。これだけわたしがこの隣の席の彼について観察していたのは単に彼が目立つから。今だってわたしが女の子に囲まれて「さんって…あの有名な大富豪の娘って本当!?」とか下らない話に捕まっていたら、「坊ー迎えに来ましたよーってめっちゃぎょーさんかいらしい女の子おるやないですか!やっぱレベル高いわぁ、聖十字学園。あのー、すみません、アドレス教えてくれはりませんか?」なんていきなり彼のお友達らしきナンパ男が乱入してきたからであって、皆がそのナンパ男に気をとられているうちにわたしは荷物をまとめて近くにいた子に「ごめんなさい、わたし、用事があるから」と伝えると教室を抜け出した。
高校の授業は明後日からみたいだけど、“塾”の授業は今日からはじまる。わたしにとっての高校生活でのメインはその祓魔塾。ようやっと、憧れていた祓魔師になるための勉強ができるのだ。わたしは家に送られてきていた塾の鍵を握りしめる。まだ、塾まで時間はある。寮に戻ると鞄を置いてクローゼットから胴着を引っ張り出した。わたしは両親のよくわからない計らいで1人部屋だ。まぁお金積んだら可能なオプションらしいけれどそれに少し感謝した。わたしの日課はきっと同年代の女の子の中では浮いてしまうだろうし、朝早くや夜遅くに部屋に出入りするときに気にしなくても良いのだから。胴着に着替えて革の袋から刀を取り出すと昨日のうちに見繕っていたちょうど良い場所へと足を運んだ。
メフィストが迎えに来るまでと校内を見て回っていた奥村燐は気が付いたら足は校舎の裏へと回っていた。いやいや、普通食堂とか、体育館とかそういったとこから見るだろ、と自分で自分の行動にツッコミを入れたけれども足は止まらない。なんだか無性に、中学生の頃なら呼び出されでもしなければ行かなかった、良い思い出のない校舎裏へと行きたくなってしまったのだ。どうせメフィストはまだ来ないだろう。燐は考えるのをやめて足を進めた。
校舎裏は思った通り日陰で少しジメジメしていたが、思ったよりは小綺麗でベンチとかも設置されていた。そして、少し開けた場所で真っ黒の和装、袴をはいた女の子が刀を持って舞っていた…否、悪魔と闘っていた。「な、あぶねぇ…だろ!?」燐は一瞬彼女の舞うような動きに見とれたけれども、すぐに正気に戻る。助けに行こうと駆け出したところで彼女の刀が悪魔に止めをさした。 断末魔をあげて消えていく悪魔を前に燐は伸ばした手を下ろすと彼女も燐に気が付いた。「だ、大丈夫だったか…?おまえ、祓魔師なのか?」燐は彼女に思わず尋ねると彼女は困ったように笑った。「いえ、わたし、まだ祓魔師ではありません。今日から祓魔塾に通う予定ですけれども。…あなたは?」そうだ、自分はまだ名乗ってもいなかったと燐は慌てて自己紹介をした。「俺は、奥村燐。俺も今日から祓魔塾に通うんだ!」なら、一緒ですねと微笑む彼女も名乗る。「わたし、です。宜しくお願いしますね」「な。おまえも一年生だろ?じゃぁ、敬語とかいらねぇよ」「…そっか、そうだね。」 の笑みに燐は思わず目を奪われた。可愛らしいな、と素直に思う幼い子供のような純粋な笑顔だった。だからこそ、先程までののことが気にかかり曖昧にされていたことを再び尋ねた。 「それよりもさっき悪魔に襲われてたけど大丈夫だったか?」「うん。わたし、こう見えてももう十年剣術をやっているからあれくらいはなんともないよ」十年ということは彼女は五つのときから刀を扱っていたのかと燐は驚いた。「すっげぇな!」 はそんなことないよと謙遜して、それに小さな頃はね、こーんな小さな刀を使っていてね師匠に一寸法師みたいってよく笑われたよと懐かしそうに話した。「奥村君も刀を使うの?」「いや、まぁこれは、これから使おうかなって…」燐は背負っていた降魔剣についてふれられて慌てて誤魔化すとそんな燐を見てはくすりと笑った。「ふふふ、じゃぁライバルだね。わたしももっとお稽古しないと」「…10年もフライングされたら勝てる気しねーよ」さっきだって悪魔倒してたし、と燐が口を尖らせる。そんなときの携帯が鳴った。「電話か?」「ううん、アラーム。そろそろ着替えて塾の準備しないと」燐も時計を見るとたしかにもう良い時間だった。 はてきぱきと刀を仕舞い燐に振り返った。「…じゃぁ、また塾でね」「おう!またあとでな!」燐はが校舎の角を曲がるまでその背中に手をふった。
人気のない場所で鍵を使い塾への扉を開いた。明るく美しい高校の校舎と違い、塾は薄暗く少しカビ臭かった。手紙に書いてあった教室に入ると既に何人かが着席していてこちらを見ていたから軽く頭を下げて下を向いたまま空いている席に座った。ごそごそと鞄を置いているとガラリとドアの開く音がして真っ白の犬と先ほど会った奥村君が入ってきた。奥村君はわたしに気がつくと「!」と手をふったからわたしも笑顔で手をふる。奥村君はわたしのひとつ前の席に犬と一緒に座った。「この犬、奥村君が飼ってるの?」「え、いやなんか、そのー、勝手に着いてきたんだ」奥村君がそう言うと犬はワンと不服そうに彼の腕に噛みついた。「いってぇ!なにすんだ!?」そんなことをしているとガラリと扉が開いた。「席についてください。授業を始めます!」入って来たのは祓魔師の制服を着た同い年くらいの男の子だった。「はじめまして。対・悪魔薬学を教える奥村雪男です」教壇に鞄を置く先生に奥村君は尋ねた。
「ゆきお?」
「はい、雪男です。どうしましたか?」
「いや、どうしましたかって、お前がどうしましたの!?」
「僕はどうもしていませんよ。授業中は静かにしてください。」
奥村先生は奥村君を突き放して簡単に自己紹介をはじめた。なにか見覚えがあると思えば新入生代表で入学式で何か読んでた人だった。わたし達と同い年だけれども祓魔師としては2年先輩だとか。そして今日は魔障の儀式をすると言って教室を見回した。
「まだ魔障にかかったことの無い人はどの位いますか?挙手をお願いします。」
魔障とは悪魔から傷を受けること。それを受けることによって初めて人間は悪魔を視ることが出来るようになる。祓魔師を目指す者ならはじめの第一歩というようなものだ。わたしは小学生の頃に魔障を受けたから儀式とやらをする必要はない。ちらほらと挙がる手を確認して先生はゴソゴソと鞄を探った。
奥村君は犬とごにょごにょ話していたりとか、なかなか忙しない。前でごそごそされたらなかなか集中できないかも、なんて思わずため息をついた。
先生の説明によるとこの教室は普段は使っていなくて鬼属の巣になっているらしい。今は部屋は明るく人もいるから出てこない鬼属達を腐った動物の血を嗅がせて興奮させて誘いだし儀式に使うとか。先生が準備のため鞄から牛乳を取り出し、鬼属の好物のそれで血を割るためビーカーに注いでいると奥村君が立ち上がり先生に詰め寄った。そういえば先生と奥村君の名字は同じだから家族かなにかなのだろうか。どちらにせよ穏やかではない雰囲気で二人が話していたけれども、先生が冷たく奥村君をあしらうと、いつのまにか教壇のところまで移動していた奥村君が奥村先生に掴みかかった。そしてその拍子に先生の持っていた試験管が床に落ちたのだ。それと同時に鼻が曲がりそうなくらいの異臭が教室に漂い、ドオンと大きな音をたてて天井が爆発して悪魔が現れた。先生はすぐに銃を取り出して応戦した。「教室の外に避難して!」次々と凶暴化した小鬼達が現れる。生徒達は慌てて扉の方へと駆け出すからわたしもそれに習って鞄を持ったとき、「坊!」と焦ったような男の子の声が聞こえて振り返るとあの金のメッシュの、同じクラスの男の子の方へと小鬼が迫っていた。彼はまだ魔障を受けていないのか小鬼とは見当違いの方を向いている。彼の友達だろうピンク頭の子と坊主頭の子が慌てて小鬼と金メッシュの間に入るけれども彼等は丸腰だ。悪魔が見えていても無傷じゃすまない。奥村先生は同じく小鬼に狙われている女の子の方に気がいっている。わたしはすぐに駆け出して男の子達に向かって飛んで行った小鬼を革の袋に入れたままの刀をバットのようにして打ち返した。小鬼は教室の端まで吹っ飛んでいって潰れる。ピンク頭の子がひゅう、と口笛を吹くのを坊主頭の子が「志摩さん!」と往なして金メッシュの子を教室の外まで連れていった。そして“志摩さん”は「とりあえず俺らも早う避難しましょか」とわたしの手を引いた。奥村先生はわたし達がそとに出ると奥村君にも外に出るよう指示したけれども、奥村君は教室から出ないままピシャリとドアを閉めた。教室の中には先生と奥村君が残り、銃声と何かの倒れるような音が響く。隣からふう、とため息が聞こえてまだ繋いだままだった手の先にはピンク頭の志摩さん。「えらいめあいましたねぇ。怪我は無いです?」愛想よくへらりと笑う彼を思わず見つめていると「そんなに見つめられるとなんや照れるわぁ〜」なんてニヤニヤしだしたから驚いて手を離して「すみません」と少し距離をとった。なんとなく。志摩さんはなんだか残念そうに「そない離れんでも…」と言っていたらパシンと後ろから頭を叩かれていた。「いったー!坊!なにしますのん!?」「ええかげんにせぇ、志摩」後ろから現れたのは金メッシュの子と坊主頭の子。坊主頭の子はわたしと目が合うとにこりと微笑み「ほら、坊」と金メッシュの肩を押した。「その…さっきはありがとぉな。助かったわ。」金メッシュの子が恥ずかしそうにわたしに言う。「気にしなくていいよ。まだ見えないんだし、それにいくら魔障の儀式がまだでもあれくらったら痛そうだったから。」わたしの言葉に志摩さんも同意した。「たしかに、あれくらったらいくら下級悪魔の小鬼でも骨いってまいそうでしたわ」「僕らからもお礼言わせてください」坊主頭の子にも頭を下げられてなんだか誇らしいけれどもむず痒い。わたしが締まりの無い顔で照れていると金メッシュが「確かおまえ、ゆうたか?」と言うから頷いた。「うん。だよ。…隣の席だよね」「おん。俺は勝呂竜士や。」「あ、坊だけずるいですわ!俺は志摩廉造いいますねん。」「僕は三輪子猫丸いいます。」廉造君とか廉ちゃんって呼んでも良いですえーと志摩さんは元気にはしゃいでいたから「うん、廉ちゃん」と言うと余計に元気になった。廉ちゃんは明るく元気いっぱいの人のようだ。勝呂竜士君はそれを見てうっとおしそうに「あんまりこいつ調子に乗らさんでええで」と言う。「そんなつもりはなかったんだけど…あ、竜ちゃん達は京都から来たの?」わたしが自己紹介のときに彼が言っていたことを思い出して尋ねると廉ちゃんはブフォっと派手に吹き出した。 …わたし何かへんなことしたっけ?竜ちゃんを見ると彼はなんだか顔を赤くしてお腹を抱えて笑っている廉ちゃんに怒鳴った。「志摩!なに笑っとんねん!つうかおまえも!なんやねん竜ちゃんて!?」すごい剣幕で怒鳴られてびっくりしておずおずと答える。「だって、廉ちゃんが廉ちゃんなら竜ちゃんは竜ちゃんかなって…子猫丸君は子猫丸君が良いと思ったけど…」子猫ちゃんはちょっと違う意味にとられかねないから子猫丸君。さっき廉ちゃんの提案に乗ったときに咄嗟に残る二人の呼び方を考えていたのだ。竜ちゃんと子猫丸君に「嫌だったら変えるけど…」と不安になって聞くと子猫丸君は笑顔で「僕はそれが良いですわ」と同意してくれて安心した。竜ちゃんはなんだか眉間にシワを寄せていたけれども「しゃぁないからそれでええわ」とOKをくれた。
「まぁ、とにかく!よろしゅうな、」
「こちらこそ、よろしくね」
「ちゃんちゃん!俺も〜」
「さん、宜しくお願いしますわ」
「うん!」
そのあと奥村君と奥村先生はすっきりした様子ですっかり荒らされた教室から出てきて、別の教室で無事儀式を済ました。
明日からの授業も、楽しみだ。
早朝、使われていない旧校舎のホールでひとつ深呼吸をして、刀に手をかけた。
刀の名は、妖刀・蜜蜂丸中学生になったときに、師匠から預かった。
カチリ、と刀身を少し鞘から抜き出すとふわりと辺りの空気が重くなった。
そして一息で刃を抜くと同時に現れた悪魔を切り裂く。
小鬼が数匹、数は少ないものの、でかい。でもこの程度なら問題はない。
「表之剣術 鬼退治」
教えられたとおりに足を運び刀を振っているとガラリと扉の開く音がしてチラリと視界に入った人に気が付いたが、とにかく残る二体に向き直りすぐに片付けた。
「…また1人で悪魔を祓ってたのか?」
もう生き残りは居ないかと確認して刀を鞘に納めていると奥村君がこちらに来ながら言った。
「うん。そう言っても下級の悪魔だけだけどね。修行兼日課なの。」
ふうん、と奥村君はわたしの刀を興味深そうに見つめた。
「奥村君は、どうしてここに?」
この旧校舎は使われなくなってから随分たっているようだが、未だに取り壊しもされずにそのまま放置されて廃墟のようになっているから
普通の人なら近付かない。だからこそわたしもここでお稽古していたのだ。
「あーその、なんか目が覚めちまってちょっと散歩だ!」
「…そっか。朝の空気は気持ちが良いものね。」
「そ、そうだな。」
ぎこちなく笑う奥村君。
…偶然ならいいのだけれど、とわたしはいろいろ勘繰りながら刀を帯から外して袋に仕舞い、代わりに中に鉄の芯を入れた木刀を取り出した。
「まだ練習するのか?」
「うん。今からが本番。素振り、型…やることはたくさんあるから」
奥村君はそっか、頑張れよとわたしに言うとそそくさと退散して行った。
…本当に、偶然なのだろうかわたしはまだ頭に残っていた疑念を振り払い木刀を振った。
鍵を回して教室に向かうとやはり奥村君以外のメンバーは揃っていた。手にはめたパペットをごそごそいじっている男の子、フードで顔を隠してゲームに勤しむ人、仲良さそうに何かを話している女の子二人、そしてー
「おはようちゃん!今日もかいらしいわぁー」
「、おはよーさん。志摩…」
「おはようございます、さん。志摩さん高校なったら紳士なるゆうてはりませんでした?」
三人のやりとりにくすりと笑ってしまった。
「おはよう」
廉ちゃんがここ座りはったら?と廉ちゃんの隣で子猫丸君の後ろの席をぽんぽん叩いたから御言葉に甘えて席についた。
「今日から本格的に授業もはじまるらしいですね。」
「あぁ。前回の課題はわりとわかりやすかったけど、初回やから簡単やったんやろうしな。」
「えぇ!?俺気張らな出来んかったんですけど…」
廉ちゃんに「ちゃんは!?」となんだか必死に聞かれたから「うん…まぁ、」と曖昧に笑うと竜ちゃんがハァと呆れたように言った。
「志摩、は俺と一緒の特進科やで?」
「昨日坊と一緒のクラスやゆうてはったやないですか」
子猫丸君にも追い討ちをかけられて廉ちゃんは机に力なく伏せた。わいわいと楽しく話していたわたし達だけれども、奥村先生が入ってくると後ろを向いていた竜ちゃんと子猫丸君はさっと前を向く。廉ちゃんもお喋りをやめてテキストを出す。三人とも切換がしっかり出来ていて好感がもてた。わたしも前を向くと奥村君が時間ギリギリでやってきて「!」と手をふるから昨日と同じように笑顔で手を振った。そして奥村君が席についたら丁度チャイムが鳴り授業が始まった。授業のはじめに新しい塾生らしい杜山しえみさんが紹介された。杜山さんは着物を着ていて人形のように可愛らしい女の子だった。奥村君の知り合いらしく、先生に紹介された後彼女はそそくさと奥村君の隣の席に着いた。そして本格的な祓魔学がはじまる。
竜ちゃんは頭が良くてそれだけでなく真面目だった。学校でも塾でも真面目に授業を受けて、予習復習もしっかりこなす。学校の休み時間は自然とわたしは竜ちゃんと話すことが多くなったけれどもとても有意義な話ができて良い。昼休みになると、廉ちゃんと子猫丸君が「坊ー、ご飯食べましょ」と竜ちゃんを迎えにやって来る。「さん、こんにちは」「子猫丸君、こんにちは。」「ちゃんポニテも似合ってはるわー」「ありがとう、廉ちゃん」二人と挨拶していると今日も彼女達はやって来た。「さん、一緒に食堂行きましょうよ」「うん。それじゃぁまた後でね」わたしは三人にそう言うと彼女達についていって食堂で食券を買いに並ぶ。彼女達は所謂お金持ちのお嬢様達でわたしに良くしてくれる。両親はわたしのすることに反対することなんて無かったから好きにしなさいと高校としても名門校である聖十字学園に行くことはすぐに許した。騎士團のことも知っていてるらしいから、わたしの祓魔師になりたいという話にも好意的ではあったが、世間から浮いていた娘の交遊関係を心配したのか周りの人に何か言ったのだろう。彼女達は入学初日からわたしの回りに居る。はじめは煩わしかったけれども、最近は悪くはないと思っていた。はじめはわたしを通して両親を見ていた彼女達だがしばらくすると段々とそういう風に見るだけではなくなる子達も居たから。それに、居心地は悪くはないから気にしない。適当に選んだメニューを受け取り彼女達の話に相槌をうちながらご飯を食べる。 お昼休みが終わった頃にはわたしはじりじりしてくる。早く、早く塾の時間にならないかなぁ。強くなりたい。あのときわたしを助けてくれた人のようなヒーローになりたい。 黒板に書かれる数式をノートに写して一番前だけれども案外見つかりにくいこの席でこっそり塾のテキストを予習。 やっと高校の授業が終わってわたしはバタバタと帰る準備をする。「…予習くらい寮でせんかい」そんなとき竜ちゃんがボソリと言った。「やったんだけど、気になるところがあったから…」わたしはバレてたと苦笑すると竜ちゃんはわたしの鞄からはみ出していた悪魔図鑑を指差す。「そんなもん読んどるんがバレたら変人認定されるわ」鞄の中に慌てて悪魔図鑑を引っ込めるわたしにため息をつく竜ちゃんだったけれども、ホームルームが終わったら「行くで」と子猫丸君と廉ちゃんが来ないときはわたしも誘って二人の教室まで行ってくれる見かけによらず面倒見の良い人だ。廉ちゃんと子猫丸君が迎えに来てくれたときもたいてい廉ちゃんが「行きましょか」とわたしに笑いかけるからわたしは学校のある日はたいていこの京都出身の三人組に混ざって塾へと向かうのだ。幼馴染みの三人に混ざるのは最初は気が引けたけれども、三人とも優しいし、三人の会話を聞いているだけでも充分楽しかった。塾生は他にも六人いる。奥村君とはお稽古をしているときによくやって来るからそのときに話したり、杜山さんとも奥村君を通して少し話すようになった。でも授業中は奥村君は忙しないので最初以来あまり近くには座っていない。最近は竜ちゃんの後ろで子猫丸君の斜め後ろ、廉ちゃんの隣の席が指定席だ。神木さんと朴さんとは挨拶程度は交わすけれども、女の子独特の仲の良さに割って入る勇気は無かった。パペットの宝君やフードの山田君とは挨拶…するけれども反応は薄い。そんな感じでわたしは自然と三人と居ることが多くなったのだけれども。竜ちゃんの機嫌がここ数日すこぶる悪い。原因は奥村君。竜ちゃんは本気で祓魔師を目指している。そんな竜ちゃんには奥村君が授業中に寝たり予習復習しましたか?というようなテストの結果等諸々が大変気にくわないようだ。さっきも対悪魔薬学のテストの返却でひと悶着起こしていた。その度に止めに入る廉ちゃんと子猫丸君には少し疲れのいろも見える。「…たいへんだね」なんとか竜ちゃんを落ち着かせて帰ってきた二人にそう声をかけると廉ちゃんは「わかってくれはります〜!?」と泣きついてくる。それを見てまた子猫丸君がため息をついて廉ちゃんを止めようとするから大丈夫だよ、と目で伝えて廉ちゃんをどうどう、と宥めながら聞いた。「小さいときからあんな感じなの?」三人が京都の由緒あるお寺の出身で、大僧正の息子の竜ちゃん、そしてその門徒のお家の廉ちゃんと子猫丸君は同年代の男の子同士ということもあり幼い頃からずっと一緒に遊んでいたということは聞いていた。そのお寺が16年前の青の夜で廃れてしまったことも。「せやねぇ、坊は昔から変態やったわ…お経聞くのが好きでよぉ俺らに黙って寺に忍び込んではったし」廉ちゃんは懐かしそうに笑う。子猫丸君も穏やかに笑った。「変態は志摩さんや。…でも坊は真面目で真っ直ぐすぎるから心配してしまうんです。」「…二人とも竜ちゃんがだいじなんだね」二人はへにゃりと笑った。
心配するわたし達をよそに体育の実習でも二人のいがみ合いは続いていた。悪魔の動きに慣れるための訓練で子猫丸君と一緒に蛙から逃れるのを終えて演習場の上まで戻ると最悪なことに次のペアは竜ちゃんと奥村君。廉ちゃんが隣でげ、とこれから起こるであろうことを想像してげっそりしていた。その読みは当たっていて、悪魔の動きに慣れるという目的を忘れて徒競走を始める二人。挙げ句の果てには竜ちゃんが奥村君に飛び蹴りを喰らわせ先生が蛙を止めることにまでなってしまった。流石に先生も授業を止めて竜ちゃんだけ呼び出して何か話している。
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熱血系でいこうと思ったら淡白な人みたいになってきて挫折
合宿後くらいからのオリジナルストーリーとかも作りかけで放置してました。