藁にもすがる、とはまさしくこのことで。
ゴンの父、ジン・フリークスの今のところ唯一の手掛かりであるジョイステのゲーム、グリードアイランドをオークションで落札するためなんとしてもお金の必要なゴン、キルア、そしてレオリオの三人は条件競売でダイヤをかけた腕相撲を足掛かりにマフィアの運営するクラブに招待され、その条件競売に参加することにした。
参加費は500万ジェニー。
内容はかくれんぼ。
配布された写真の男女を生死問わず連れてくること。
賞金は1人につき20億。
しかしキルアが推察するにその男女はおそらくA級賞金首の盗賊団、幻影旅団かもしれない。
危険ではあるが他にこんな大金を手に入れるチャンスもない三人はすぐに旅団探しに取り組んだ。
まずは復讐から旅団を追うクラピカに電話をかけたが繋がらない。
そして次に、ヨークシンで会おうと約束してまだ会えていない彼女をレオリオが思い出した。
「と連絡はとれたのか?」
「携帯買ってすぐにメールしたけど、まだ返事が来ないや。」
「じゃあ電話してみる」
キルアはすぐに携帯で電話をかけた。
がそんな大金(最低落札価格89億)なんて持っているハズが無いのは知っているけれども、時間もお金も無い三人は人手だけでも欲しかった。
『もしもし。キルア、どうしました?』
案外早く出たに呆れながらもキルアは安堵する。
9月1日に会おうと約束しておいて最近連絡のとれないでいた彼女のことを彼なりに何かヤバイことにでもまきこまれているのでは、と少し心配したのだ。
「どうしました、はこっちの台詞!ゴンがメールの返事が来ないって言ってるから電話したんだって」
『すみません。わたし、文字が読めないので…』
「まだ覚えてなかったのかよ!どうやって生活してんだおまえ!?」
そうだ、彼女は文字が読めないからハンター試験では自分と行動を共にしていたのだ。
しかし、ハンター試験が終わってもう半年以上たっている。
こいつ、覚える気あんのか?
とか自分より6つも歳上の彼女の生活能力の無さというか適当さには試験のときから呆れさせられてばかりだ。
電話越しでもキルアの呆れは伝わったのか、は誤魔化すように早口で言う。
『でもまず求人広告が読めなくて、仕方なく、前の仕事のコネというか知り合いを頼ってそっち方面の仕事をしていたら思ったより忙しくて勉強する時間も無かったんです!』
隣で話を聞いていたゴンが「仕事ってたいへんなんだね」と感心していたけれども、キルアは彼女の言葉に更に呆れた。
せっかくとったハンターライセンス、全然活用できてねぇじゃん。
彼女の説明では仕事の待遇は相変わらず悪いようだが、ハンターとなれば女で無戸籍だろうとある程度は“こっち側”の仕事でも優遇される。
本当に、要領の悪い奴。
「とにかく、今どこにいるの?」
『…ヨークシンシティです。』
ちゃんと来れたのか、なんてレオリオに言われているがそれは彼女には言わないでやろうとキルアは精一杯の気遣いで堪えた。
「俺ら今ホテルとって、ゴンとレオリオと俺の三人で居るんだ。クラピカは仕事がたてこんでるらしいからまだ会えてない」
『そうですか!…懐かしいですね。』
「は?」
『わたしは…さっき、仕事を変更されてしまって…報酬も前金すら貰えなくなってしまって…』
「はぁ!?」
キルアはあんまりなについに同情してしまった。
そうだ。彼女は出会ったときから同類とは思えないほど抜けていたのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
キルアがと会ったのはハンター試験の前だった。
家出したキルアは気が付いたら手持ちの金を切らせていて、わざと隙を見せて適当にかつあげか人拐いにでもあって返り討ちにして金稼ごうかなーとか物騒なことを考えて実行しようとしていた。
ちょうどよく、柄の悪い連中に「あれー、ぼくちゃん迷子ぉ??」なんてからまれたので。
キルアは早速かかった、と裏路地へと腕を乱暴に掴まれひきずられるままでいたとき、が現れたのだ。
「良かった!探していたんです!」
そう言ってキルアの男達に掴まれている腕の反対側を握った彼女は男達ににっこり笑いかけた。
「ありがとうございます。弟はよく迷子になるので助かりました。」
しかし、銀髪のキルアと東洋人の。どう見ても姉弟には見えない二人に柄の悪い男達は納得せず「なんだ、お嬢ちゃん。俺達の邪魔しようってのか!?」と隙だらけのダサいファイティングポーズをとった瞬間、はリーダー格の男の顎に蹴りを入れてキルアの手をひいて駆け出した。
男達は追ってきていたけれどもちょっとスピードを上げて走るとすぐに撒けて街の外れでは立ち止まって振り返った。
「…大丈夫でしたか?」
キルアは子供を、ゾルディック家の訓練並みのスピードで走らせておいてそんなことを聞く彼女の間抜けさや、金のあてを潰されたことや、お腹が減っていたなどという様々な要因で機嫌は最悪だった。
「あたりまえだろ。アンタ、俺があんな奴等に殺られるとでも思ったわけ?こんだけ走らせておいて?」
キルアの言葉にはきょとん、とした後にはっとようやく気付いたようだった。
「…足、早いんですね。」
「鍛えてっから。足だけじゃないよ?手刀だって早い」
キルアは一緒に走っていて、自分の手を引く彼女は同じこっち側の人間であるということに、彼女の身体能力や雰囲気から察していた。
ならば、あの男達からこっちにターゲットを変えるだけだとキルアはこの間抜けな女、少女の背後に回り込み首に手刀を決めようとしたが、あっさりとその手を受け止められて慌てて間合いを取る。
「…なんだ、ちょっとはやれるんだ。」
「…何か困っているのですか?」
そこらへんの輩とは違ってある程度はできるようなのに、攻撃されてもまだお人好しを続けてくるは当時のキルアの神経を逆撫でした。
子供だからなめているのか、それとも本当のバカか。
キルアはイラついたけれども抜け目なく隙を伺いながら答えた。
「家出したから小遣い稼ぎ。腹へってンの、俺」
それを聞いて彼女は目を丸くしてそれはたいへんですね、と言うからあぁ、コイツは“本当のバカ”の方だったかとキルアは呆れた。
よくこの同類はここまで生き延びられたなと悪い意味で感心さえする。
そんなとき、少女はポン、と手を打って「良いことを思い付きました!」ととんでもないことを言った。
「わたし、読み書きができないんです。わたしの代わりに読み書きして頂けませんか?そしたら代わりに衣食住を保証します。」
「ハァ!?」
なんだかすっかり殺る気を削がれたキルアはなんだかんだでとファミレスに居た。
そのときに初めてお互いの自己紹介をした。
は諸事情で戸籍が無く、そのため仕方なくマフィアの用心棒やヤバいお宝の警備とかをして食いつないでいたけれども、そのマフィアが壊滅したためそれを機に足を洗ってまともな仕事につこうとここまで来たと説明した。
しかし、まともな仕事につくためには最低限戸籍はいるし、は読み書きもできない。(何故かジャポン語はある程度は読み書きできるそうだ。)
そこで、ハンター試験を受けて様々な優遇を受けられるハンターライセンスをとろうと決心したものの、字が読めず、人に聞いてもお嬢ちゃんはやめておけと詳しく教えてもらえずに困りきっていたのだ、と笑った。
「じゃぁアンタはハンター試験受けるんだ。…それってたのしいの?」
「…聞いた話ではとてつもなく危険で死者も出るような難関試験らしいです。」
「ふーん、おもしろそうじゃん」
家出したものの、特に行き先も決めていなかったキルアはの話を聞いて自分もハンター試験を受けようとすっかり乗り気になっていた。
なんとなくこの抜けている少し歳上の少女をまた一人で放っておくのも気が引けたし、三つ目のパフェを食べ終えてお腹もすっかり満足したから、暇潰しに付き合ってやろうと思ったのだ。
「じゃあ、とりあえず役所にでも行こーぜ。俺もハンター試験受けるって決めたし」
「!」
は少し驚いたあと、「はい!」と大きく頷いた。
こうしてキルアとはザバン市の会場から試験が終わるまで、行動を共にすることとなったのだった。
「とにかく!今からこっち来いよ!おまえ、ほんっとーに間抜けだな」
『っ、今日のはどうしようもなかったんですよ!…わかりました。今から向かいます!』
ピッ、ツー、ツー…
とにかく、あんな間抜けでも猫の手よりはマシなハズだとキルアは二人に、今から来るってと伝えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お久し振りです!」
半年ぶり位に見たは全然変わっていなかった。
「ゴン君、すみません。メールを返せなくて…」
「いいよ!俺こそが字を読めないの知らなかったからお互い様だよ」
ゴンはそう笑うとも納得したようにそうですね、と笑ったけれども、キルアは違った。
「いーかげん覚えろよな。だからタダ働きさせられんだよ」
キルアはゴン達よりも前からのことを知っているようだったけれども、ハンター試験のときからやたらとに厳しい。
でもそれはのことを心配しているからだとゴンは気が付いていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ハンター試験の一次試験がはじまって、大人達が走るなかスケボーで悠々とやってきたキルアの隣で散歩している犬のように走っていた少女。それがだった。
レオリオは持久力を試していると思われるこの試験でスケボーを使っているキルアに文句を言ったけれども、クラピカとゴンにあっさり往なされた。その隣では困ったように笑っているだけだった。
「ねェ、君。年いくつ?」
「もうすぐ12歳!」
ふーん、とキルアはじっとゴンを見た。
「やっぱ俺も走ろっ」
スケボーからかっこよく降りて走り出すキルアはゴンと並んで走り出した。
「俺、キルア。こっちは」
キルアに自然と紹介されたはゴン達三人に向いて、お辞儀した。
「です。」
「俺はゴン。」
「オッサンの名前は?」
いい感じに自己紹介が進んでいたが、キルアの一言はレオリオにとっては許しがたいものだったようだ。
「オッサ…!?これでもお前らと同じ10代なんだぞ俺はよ!」
レオリオの10代宣言に思わず大きな声をあげて驚く一同は受験者のなかでは一際目立ってクラピカはこっそりその集団から離れていた。
レオリオの衝撃の事実発覚から少し落ち着いたとき、キルアがそーだ!とぽん、と手をうった。
「、何歳だと思う?」
キルアはニヤニヤしながらを指差すからゴンとレオリオは「キルア君!」と慌てるを自然と観察してしまった。
ゴンはの纏っている雰囲気は落ち着いていたけれども、顔付きや身体は自分達とあまり変わらないような気がした。
「俺達よりも2つ上くらい?」
「残念、コイツこれで18歳らしいぜ!」
えぇ!?と驚くゴンにぜってー詐欺だよなーとか子供特有の失礼さを全面に出して笑っているキルアを罵りつつもレオリオも内心ゴンと同様に驚いていた。
まさか、一つ違いだなんて、と。
たしかにアイジエン人は童顔というか、年が若く見えるというがここまでか、と感心した。
は居心地悪そうに「…皆さんの発育が良すぎるだけなんです」とか呟くたびにキルアが「発育の問題じゃなくてが童顔なだけだろ」とからかっている。
まだ少し走りながら喋っただけだけれどもキルアはが困るようなことをよく言ったりしたりしていた。
けれどもそれはを困らせるためじゃなくて、じゃれつくような感じでゴンは思わず聞いた。
「キルアとは姉弟なの?」
「はぁ!?」
もちろん一番に反応したのはキルアだった。
「ちげーよ、それにが姉貴だったら…」
キルアは小さく何か言っていたけれども、耳の良いゴンにすら聞き取れないくらい小さな声だった。
は「1ヶ月程前から一緒に行動しているんです」と簡単に説明しただけだった。
少し沈黙が続いたけれども、レオリオが疲労で辛そうにしだしたためそのことはしばらくは忘れていた。
なんだかんだあったけれども、レオリオも無事最後の階段を登り終えゴン、クラピカ、レオリオ、キルア、の五人と受験生達は霧の深い湿原が見渡せる小高い崖のようなところに出ていた。
これで終わりかと思った一次試験のマラソンはまだ中間地点だったようで、これからは地下道ではなく“ヌメーレ湿原”通称詐欺師の沼を走り抜けていくとか。
湿原に行く前に一次試験官サトツに言いがかりをつけて受験生を騙そうとしたこの湿原特有の魔獣が現れたりしたけれどもそれもヒソカのおかげ、で乗り切り一同は再びぬかるみと深い霧の中を走り出した。
様々な手を使って受験生を騙して食そうとする魔獣で混乱するなか、ゴンとキルアとはいつの間にか一番前を走っていた。
他愛ないお喋りをしてまだまだ余裕はある。
ゴンは試験会場に着くまでの話をして、キルアもと試験会場に向かったときのこととかを話していた。
はキルアが話の途中で、黙って走る彼女に「、聞いてんのかよ」とすねるたびに「ちゃんと聞いてますよ。でもまさか飛行船のチケットをとるのがあんなにたいへんとは思いませんでした」と上手いこと話を広げてキルアの機嫌をとっていた。
そんな三人だけ和やかなムードでいたとき、不意にキルアとが反応した。
「…キルア君」
「わかってる。ゴン、もっと前に行こうぜ」
「そうだね。霧も深くなってきたし。」
暢気な返事のゴンに苦笑いしてが言う。
「それもありますけれども、ヒソカです。」
「アイツ、霧に乗じて殺る気だぜ」
背後からの禍々しい殺気。
闇で生きてきた人間ならばすぐにこれを放つ者が次に何をするのか、理解できる。
でもこっち側とは違う世界の人間はそれに気付くことはできない。
きょとん、として二人を見るゴンにキルアは影のある笑みを見せた。
「なんでわかるのって顔してるね。俺ももヒソカと同類だからさ。」
納得いかない様子のゴンにキルアはそのうちわかるさとニヤリと笑って言う。
「は抜けてるだけだけど」
しかしそこには流石のも反撃した。
「キルア君は猫かぶってるだけです。」
しかしゴンはいつまでも後ろを伺うのをやめない。
がそんなゴンを見て
「…クラピカさんとレオリオさんが巻き込まれていなければ良いですけど…」
とつぶやくように言った直後、後ろの方から聞き覚えのある声が響いた。
いってーーー!!
「レオリオ!!」
さっきああ言ったにも関わらず直ぐに後ろへ駆け出すゴン。
「ゴン君!」
思わずは足を止める。
「まで行くなよ!」
キルアはそんな二人を見て呆れていた。
ヒソカなんかとまともにやりあえる訳がない。
キルアが考えていることはゴンにもよくわかっていた。
「俺は大丈夫!もキルアも先に行っといて!」
は迷っていたがゴンの目を見て頷き前を向いて少し距離のひらいたキルアの方へ走り出した。
キルアは安心したように見えたけれどもすぐにを小突いた。
そしてゴンは視界が霧で遮られるのでレオリオの匂いを頼りに二人と反対方向に走り出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それではどんな仕事してたんだ?」
レオリオがに尋ねるとはキルアの小言から逃げられたと少しほっとして答える。
「警護の仕事の予定だったのですが、直前に変更されてしまって…」
「変更?」
ゴンは純粋に何をしていたのか気になって聞くとは苦笑いした。
「はい。警護から、戦闘員に…でも契約違反だったのでこっそり逃げてきましたけど」
「戦闘!?おいおい、危ねぇな!怪我とかはしてねぇのか!?」
レオリオがの頭のてっぺんから足の爪先まで確認する。
「だ、大丈夫ですよ!逃げ足は早いので」
「ったく!ほんっとは生活能力ってか生存能力無いよな」
相変わらずにつっかかるようなキルア。
レオリオはそんなキルアに呆れているようだったけれども、この間くじら島で星を見ながらキルアとたくさん話をしたゴンはこういうのを“微笑ましい光景”っていうのかな、と二人を見ていた。
「…が姉貴だったら嫌に決まってんじゃん。だって、俺の家族見ただろ?みたいな間抜けじゃぜってーやってけねぇし…」
眠りにつく直前にキルアが言ったあの言葉。
素直になれないキルアの精一杯がつまっていて、ゴンもそのあとあたたかい気持ちで眠ったのだった。
もきっと、キルアの本音に気づいているから、困らされても少し嬉しそうに笑うんだろうな。
ゴンは変わらない二人の様子を眺めて1人思った。
ただでさえヨークシンの時間が難しいのに試験のときとクロスさせたら収拾つかなくなりそう。
転生もののはなしでしたがその設定がまだ出てきてない\(・o・)/!
わかりにくい区切り方になってしまいましたが、二話分です。。