手を伸ばす

部活の活動が終わって、一息つくと、テニスコート近くのベンチに知った顔が座り込んでいた。
もう随分遅い時間なのに、まだまだ寒い時期なのに、彼がそうしている理由には思い当たることがあった。

「切原」

切原がぼんやりとわたしを見て、「」と呟いた。
切原はわたしと同じクラスで、立海の強い部活である男子テニス部の部長になったばかり。
わたしも部の部長になったばかりだったから、お互い境遇が似ていることもあり、それなりに話したりもする。

「隣、いい?」

「ああ。」

わたしは切原とスクイズふたつぶん挟んだ距離に座る。
明日は、先輩達の卒業の日だった。
切原はしばらく黙っていたけれども、そのまま、空をぼんやりと眺めたまま切り出した。

「明日、卒業式だな」

「うん。」

「…俺さ、先輩達がいなくなったら、びっくりするくらい、まわりに誰も居なかった。」

二年生で全国王者立海テニス部のレギュラーとして、三年生の先輩達と共に戦ってきた切原。
練習でも、その後の放課後でも、切原は先輩達と一緒だったことを、わたしはよく知っている。
もちろん、切原に友達が居ないわけじゃない。
でも、違うんだ。
仲間と、友達は。

「俺、後輩からもビビられてるし、同じ学年の奴等からもなんか、距離とられてるし…」

切原が少し声を震わせながらたどたどしく声をつむぐ。

「先輩達と、次こそ…次こそ絶対負けないって約束したけど、俺…」

「切原、」

でも、わたしは彼を途中で遮った。
なんだか、本当に彼が先輩達のことが好きなのだなとわかって、そして境遇もやっぱりわたしと似ていたから、言わないでほしかったのだ。
そのまま黙りこくる切原の横顔をわたしは真っ直ぐ見つめて、わたしの今思っていることを言った。

「今までは切原は手をひいてもらってばかりだったんだよ。きっと。」

わたしも同じなんだ。
憧れの先輩達に近づくため必死で努力して、そして先輩達に手をひいてもらってここまで来た。
でも、気付いたらわたしは手をひかれるばかりで、誰の手もひかずに来てしまったのだと、先輩達がいなくなり自分が先輩になって、やっと気付いた。
そして、こんな自分が部長という立場で居ていいのかなど、たくさん悩んだ。
でも、先輩達は自分達の時間を使って、わたしをここまで成長させてくれた。
それならば、次はわたしが、先輩達にしてもらったように、誰かの手を引いていかなければならないのだ。

なんだか上手く言葉にできなかったけれども、必死にそれを伝える。
いつのまにか、切原は空じゃなくて、わたしを見ていた。
少し潤んだ切原の目を見て、問う。

「切原、約束、守るんでしょ?」

「…当たり前だっての」

いつもの切原の、生意気で強気な台詞にわたしは少し笑って立ち上がった。

「じゃ、わたし着替えるや。明日は先輩達の大事な門出の日だから、風邪なんかひいて出られなかったらたまらないしね。」

切原も立ち上がり、伸びをして笑った。

「俺、風邪ひいたっつっても先輩達ぜってー信じてくれねーよ。」

真田ふくぶちょーにたるんどるっ!とか怒鳴られて、柳先輩はノートをひろげてふむ、ズル休みの確率の方が高かったのだが、とか言いそう。幸村ぶちょーにはそんなことで俺の後をつぐとかよく言えたねって笑われそうで、仁王先輩や丸井先輩にはからかわれて、まともに心配してくれそうなの、柳生先輩やジャッカル先輩だけだ…

そう笑う切原にわたしも笑った。

「明日、時間間違えないようにね。いつもと時間違うし。」

「あ、そっか。あっぶね。サンキュ、

わたしと切原はどちらからともなく、じゃぁ、と背を向けた。
背中ごしに、「ありがとな」と聞こえた気がした。










「友達」としての仲の良さも好きですが、部活とかの「仲間」としての信頼も好きなんです。
これ、夢小説なのか?なあっさりして関わりも薄いヒロインでした。。