「おかえりなさい、坊」
志摩家と宝条家の喧嘩を後味悪い形となったが止めた後、離から母屋へ戻る途中の角を曲がったところで懐かしい声がした。勝呂が思わずその声の主の前で立ち止まったが、後ろを歩いていた志摩がそれに気付かず背中にぶつかってきたからよろけて前に進んでしまうと前にいた彼女に勝呂はそっと抱き締められた。
「、」
「坊!ずるい!」
「さん!無事やったんですね!」
「廉ちゃん、猫ちゃんもおってんね。おかえり。わたしは皆と違うてなーんもケガしてへんよ。ありがとう。」
それにしても坊から抱きつきにくるなんてなんや、坊が甘えたさんならはったんか思ったんに。とが笑うから勝呂は真っ赤になって「ちゃうわ!」とわたわたする。それでもたいして背中に回る腕を離そうとしないのを見て子猫丸は笑い廉造は不貞腐れた。
「姉、俺も」
「廉ちゃんは相変わらず甘えたさんやなぁ」
勝呂をそっと離して後ろの二人にが笑いかけたとき、庭の方から声がした。
「さん!ここに居てたんですか!早く配置に戻って下さい!!」
祓魔師の装束を纏った男が庭にいた。
「っ仕事中やったんか!」
勝呂はが京都支部の祓魔師のコートを着ていることを確認して怒るけれどもはあまり気にしていなくてけらけら笑って男に手をふった。
「…すみませーん!今行きますわー!!…三人とも、また今度ゆっくり話そね」
は男の方へ歩きだした…と思ったら一変、駆け足で裏門から外へ飛び出した。
「あぁ!!またっ!!さんっ!!」
男は慌ててとめるけれどもはすっかり見えなくなっていてため息をつく。
「またって…さん、いつもこんな感じなんですか?」
子猫丸が驚いて尋ねると祓魔師の男は頷いた。
「さんはずっと前から任務以外の待機時間はいつもどこかへ抜け出して…」
彼はもともと明蛇ではないから勝呂達の立場は知らずに良い愚痴の相手ができたとばかりに話し出した。
「最初こそ皆で探したけれども、いつも見つからないし次の日の朝には戻ってくるしで…所長が怒って減給やら謹慎させても駄目なのでもう諦めてますよ。腕はあるからクビにもできないし…実際任務はしっかりこなしますし…」
三人は驚いて固まった。
だって三人の知っているは、姉は努力家で真面目で誠実な人だったから…
「それ、ほんまに姉の話ですのん?人違いとか…」
廉造は驚いて尋ねるけれども男は「ここ一年はずっとそんな感じですよ。前からちょくちょくサボってたらしいですけど。」と本当に困った顔をして言うだけだった。
一年前ならまだ自分達三人も居た頃だ。
でも三人はそんなこと一切知らなかった。
なにか様子のおかしかったことも…
…そういえば、東京に行く一週間前位に珍しく柔造と蝮、がケンカしていたなぁというくらいしかない。
男はまだ仕事が残っているからと立ち去ったけれども三人はしばらくそこから動けなかった。
なんだか知ってはいけないことを知ってしまったような居心地の悪い感じがした。