「さん!」
「猫ちゃん、」
勝呂達が三人で手伝いをしていたとき、子猫丸は倉庫から余っている毛布を取りだし廊下に出るとふらりと見知った姿が前を横切ったから慌てて彼女を呼び止めた。
はいつも笑顔なのに珍しく浮かない顔をしていた。
「御手伝い?えらいなぁ。」
「い、いえ…そのための遠征ですし…」
はいつまでも子猫丸達を子供扱いしていた。
それは親の居ない子猫丸にとっては気恥ずかしいけれどもとても嬉しいことだったが、今は素直に喜べない。
子猫丸にとってのは完璧な人だった。
優しく、強く、なんでも受け入れてくれる人。
でも、彼女は自分の知らぬところで仕事をほってほっつき歩いていると聞いてしまった。
は子猫丸が黙りこむから心配してそっと頭を撫でた。
「どうしたん?大丈夫?」
働きすぎて疲れたんかな、とは笑ったけれども、その笑顔はどこか苦しそうに見えて子猫丸が反対にさんこそ、といいかけたところでぬっと、影が二人をおおった。
「はサボりすぎて暇そうやなぁっ」
振り返るとそこには勝呂が、両手にたくさんの手拭いの入った籠を持って立っていた。
坊、と微笑むと逆に勝呂の眉間にはたくさんのシワが刻まれる。
「、さっきのあれはどういうことやねん!?」
「えーっと、坊?そのー…さっきのってなんでしたっけ?」
勝呂の迫力に思わずたじたじとするけれどもしらばっくれようとする。
勝呂の後ろにはそんなを見て苦笑いの廉造がいた。
子猫丸は今しかないと思って、いや、彼女がそんなことするはずないから、とずっと心に突っかかっていたことを聞くことにした。
「さっき聞いたんです。さんが仕事をその…あまりこなせていない、といいますか…」
「サボってるって、聞いたんや。京都支部の祓魔師から」
「坊、そんな単刀直入に言っちゃいます!?…姉、嘘やんな?」
廉造は慌ててフォローするが勝呂も子猫丸や廉造と一緒でに否定して欲しかったのだ。
「サボったりしてないよ。何かの間違いだよ。」
その一言さえ聞ければ、やっぱりは、姉は前の完璧な、憧れのお姉さんだったと安心できるから。
はそんな期待と不安のこもった三人の瞳を見て少し笑ったと思ったらコホコホと咳き込んだ。
「姉?」
「…っ、大丈夫。…はぁ、バレてもうたなぁ。」
そう苦笑いをするに三人は自分達の望んでいない答えであったとわかった。
「なんで、」
勝呂がまるで絶望したとでも言うように呟く。
「仕事の待機時間とかに、ちょっとお茶したくなってもうて…」
の苦笑いは勝呂の一番嫌いな父親の、達磨のそれと同じだった。
「アカンとはわかってるんやけど、なかなかなぁ…」
一回仮病してまうとクセになってアカンねとは笑うと呆然とする三人を置いて立ち去った。
「なんで、」
京都に帰ってきてから、悪い予感しか当たっていない勝呂は絞り出すように唸った。
昔は、昔はみんなこんなんじゃなかった。
仲の悪い二つの家。
父、達磨を疑う面々。
そして姉のように慕っていた者の豹変。
勝呂は自分を心配する、でも自分と同じくらいショックを受けているだろう幼馴染たちに「大丈夫や」と返事をすると籠を持ち直した。
達磨だ。
とにかく父親と話がしたい。