「すごい霧・・・前が見えない」
「そろそろ橋が見える。その橋を越えると波の国だ」
わたし達は小さな島が集まって成り立っている波の国に、暗殺者から逃れるため霧の中小舟に乗ってエンジンを消し手漕ぎで向かっていた。
霧の中から急に現れた巨大で立派な橋。
まだ半分程度しかできていなさそうだったけれども、それでも十分巨大なそれに海が隣接していない木の葉出身のわたし達は興奮した。
しかし、今は任務中。はしゃいでいるわけにもいかない。
「でっけぇ〜!」
・・・と思ったら案の定うずまき君はその興奮を隠さずはしゃいだ。
船頭の男が慌ててうずまき君を注意する。
「こら!静かにしてくれ!せっかく霧に隠れて船をだしているのに」
うずまき君はあわててまた座る。
うずまき君が急に立ち上がったことによって揺れていた小舟はようやく揺れが収まった。
そのタイミングを見計らったようにはたけ先生がタヅナさんに聞いた。
「そろそろ貴方を狙っている敵の名前を教えていただけませんか?」
霧隠の抜け忍に襲われた時にはそのあといろいろあって聞けていなかったタヅナさんを殺そうとしてきた真の敵。
敵を知っていたほうがこちらもなにかと対策は考えられる。
タヅナさんはひとつため息をついた。
「話すしかないようじゃな。いや、是非聞いてもらいたい。あんたらの言うとおり、この仕事はおまえさんたちの任務外だろう」
タヅナさんの言葉を真剣にわたし達下忍も聞く。
「ワシはある超おそろしい男に命を狙われとる。お前さんたちも名前くらいは聞いたことはあるじゃろう。ガトーという男だ」
「ガトー・・・!?ガトーカンパニーの?世界有数の大金持ちと言われる・・・!」
はたけ先生が驚いた様子で確認した。でもわたし達はあまりピンとこなくて思わず横目でうちは君を見たらうちは君もチラリとこちらを見ていたから知らない知らない、と首を横に振るとうちは君も無言で頷いた。
うずまき君ももちろん知らないようで?マークを全身で浮かべていた。
とりあえず、なんかやばそう。
そんな下忍たちへの説明も兼ねてかタヅナさんとはたけ先生はちょっと丁寧に、話を続けた。
「そう。表向きは海運会社社長となっとるが裏ではギャングや忍を使い密輸や企業や国をのっとることを生業としているあくどい男じゃ。」
典型的な悪い奴だなとか思いながらも黙って話を聞く。
「一年ほど前じゃ、そんな奴が波の国に目をつけたのは。財力と暴力を盾に入り込んできた奴はあっという間に国のすべての海運をのっとったのだ。」
タヅナさんはそっと目を伏せた。
おそらくその“暴力”によって波の国の人々はいろいろなものを砕かれたのだろう。
「波の国のような島国においてその海上運搬を乗っ取るということは富と政治と人、すべてを支配するということじゃ。そんなガトーが唯一恐れているのは・・・予てから建設中の橋の完成なのじゃ」
春野さんが納得がいったようだった。
「そっか、それで橋を作っているおじさんが邪魔になったってことね」
うちは君も理解したようだ。
「それじゃぁこの間のあの抜け忍たちはガトーの手の者・・・」
つまりガトーは私利私欲のために波の国の民を迫害しているということ。
そしてタヅナさんの橋が完成するかどうかが波の国をガトーから開放できるかどうかに大きく関わっているということだ。
うずまき君はまだ理解できないようでうんうんうなっていたけれども・・・。
「しかしわかりませんねぇ。相手は忍すら使う危険な相手。何故それを隠して依頼をしたのですか」
はたけ先生の疑問はまったくそのとおり。
Cランク任務じゃわたし達みたいな下忍なりたてのような忍しか雇えない。
それじゃぁ先程のような忍の奇襲には対応しきれないことは明らかだ。
それならはじめからB、Aランク任務として中忍やそれ以上の忍を雇った方がリスクも低いし任務違反にもならない。
とはいえそれでもCランク任務と偽り依頼した理由は一つ、なんとなく予想がついた。
「波の国は超貧しい国で、大名すら金を持っていない。もちろんわしらももっていない。」
つまり高額なBランク以上の依頼はできないということ。
任務はランクが上がれば、特にCとBの間には金額的な差がかなり出る。
木の葉のような大きな里でもそんなにいない上忍を雇うのは今回のように新人を担当しているとかでもない限り莫大な費用がかかるのだ。
まぁ、それだけ戦力に差があるということだけれども。
タヅナさんは暗くなった船上の雰囲気を吹き飛ばすかのように明るく言った。
「まぁお前らがもし任務をわしの上陸と同時に取りやめればわしは確実に殺されるじゃろう。家にたどり着くまでのあいだにな。」
タヅナさんはその調子で続ける。
「なぁに気にすることは無い。わしが死んでも八歳になる可愛い孫が泣いて泣いて泣きまくるだけじゃ!」
う、と良心が痛む。
「あ、あとわしの娘も木の葉の忍を一生恨んで恨んで恨みまくって寂しく生きていくだけじゃ!」
・・・更に痛む。
「なぁに、お前たちのせいじゃない。」
思わずみんなで顔を合わせた。
なんだか誘導されているようで気に食わないけれども見捨てられないのも事実で、はたけ先生はため息をついた。
「ま、仕方ないですね。護衛を続けましょう」
勝った、とタヅナさんは思ったんだろうなぁ。
ちょうどいいタイミングで船は波の国へとたどり着いた。
「さぁお前ら!わしを家に着くまで超護衛するんじゃ!!」
心なしか元気になったタヅナさんは張り切って道案内をしてくれるけれども逆にわたしの心は晴れない。
話を聞いたところガトーという男は金は掃いて捨てるほどもっているだろうから、正規の忍は雇えなくても先ほどの抜け忍のように忍をほかにも雇っている可能性は高い。
そして、先程の忍達がやられたとわかった後なら、次の刺客はより強いということ。
さっきの忍ならわたし達でもなんとかなったけれども、次の刺客がもし上忍並みの実力を持っていたら正直わたし達は足でまといだ。
うずまき君が先程の失敗を返上しようと張り切ってやみくもにクナイを放ってウサギを巻き込んだりしてドタバタしているなかもやもやそんなことを考えていると、はたけ先生がわたしの近くにやってきた。
「先生・・・」
「、お前・・・」
そのとき、背後から殺気を感じてわたしは先生に頭を押さえつけられ地面に伏せつけられた。
先生はそのままタヅナさんをかばって怒鳴る。
「全員伏せろ!!」
巨大な包丁のようなものが恐ろしい勢いで回転しながらわたし達の頭上を通り過ぎて木に刺さった。
そしてその上に音もなく現れたのは包帯で口元を覆い隠した霧隠の額あてをした男。
明らかに雰囲気がさっきまでの刺客とは違う。
「へぇ〜こりゃこりゃ、霧隠の抜け忍、桃地再不斬君じゃないですか」
はたけ先生はそう言いながらさりげなく前へ出てわたし達を庇うように立った。
何を思ったのかうずまき君が真正面から再不斬と呼ばれた忍に向かっていこうとしたけれどもそれははたけ先生に止められた。
うずまき君が不服そうに文句を言うけれども先生に一蹴された。当然だ。先生が止めなければ殺されていた。
「こいつが相手となるとこのままじゃちょっとキツイか。」
先生が額あてで隠していた左目を出そうとするかのように額あてに手を当てた。
そのとき再不斬が言う。
「写輪眼のカカシと見受ける。悪いが・・・ジジイを渡してもらおうか。」
先生は再不斬から視線を外さずにわたし達に指示を出した。
「お前ら、卍の陣だ。タヅナさんを守れ。お前たちは戦いには加わるな。それがここでのチームワークだ。」
そう言うと額あてをぐっと押し上げて現れたのは赤い瞳。
「ほぅ・・・噂に聞く写輪眼を早くも見られるとは・・・光栄だな」
「なんだってばよ!さっきから写輪眼写輪眼って!」
うずまき君の疑問にうちは君が写輪眼の説明をする。
わたしもなんとなくは知っている、うちは家の血継限界、写輪眼。
瞳術の中ではほとんど最強とも思える程の能力を多数有していて、代表的なものには相手の技を見極めコピーできる能力等がある。
でも血継限界はその一族、血を有するものしか使えないはずだ。
そしてうちは家は・・・
そんなとき気がついたら深い霧があたりを覆っていた。
・・・これは、霧隠の術?
写輪眼の疑問は払って戦いに集中する。
再不斬が術発動までの時間稼ぎか、ビンゴブックに記されたはたけ先生の二つ名まで教えてくれた。
コピー忍者のカカシ。
春野さんとうずまき君は感心したようにしているけれどもそんな場合じゃない。
「お話はこのくらいにしておこうぜ?俺はそこのじじいをさっさと殺らなきゃならねぇ」
再不斬のその台詞とともにわたし達下忍は慌てて陣を組んだ。
正面はうちは君、左右に春野さんとうずまき君。
わたしはタヅナさんの背後だ。
その死角を利用してわたしはそっと印を組み、水分身を作り出した。
・・・わたしだって、水遁は得意分野だ。
これだけの霧、向こうも水分身等を使って潜んで隙を伺おうとするはず。
足でまといにはなりたくない・・・!!
「そのためにはカカシ、お前を倒さなきゃならねぇようだな」
一度姿を消した再不斬は水の上に現れ、チャクラを練り発動したのは霧隠の術。更に霧が深くなる。
「先生!」
春野さんがすがるように先生を呼ぶけれども先生は淡々と答えた。
「まずは俺を殺しに来るだろうな。」
わたしは濃い霧に乗じて水分身と入れ替わり、木の上に身をひそめたとたんに背後から口を塞がれた。
「!?」
「静かにしろ。・・・お前はここにいろ。」
バレた、と焦ったけれども後ろに居たのははたけ先生。
先生もさっきの隙に水分身と入れ替わっていたようだ。
先生は二つ三つわたしにそっと指示を下すとそのまますっと霧に消えた。
わたしは今度こそ絶対に見つからないよう気配を消す。
下では戦闘は進んでいく。
「あいつ、一体なんなんだってばよ!?」
「桃地再不斬。やつは元霧隠の忍でサイレントキリングの達人として知られた男だ。サイレントキリングはその名のとおり静寂の中一瞬のうちに遂行する殺人術のことだ。」
うずまき君の問にも答えながら油断せずにあたりを伺う先生の分身。
「気がついたらあの世だったなんてことに成りかねない。俺も写輪眼をすべて使いこなせるわけじゃないからお前たちも気を抜くな。ま、ダメでも死ぬだけだがな。」
春野さんが軽い調子の先生におこるけれどもそんな余裕はもう無い。
どんどんと霧が濃くなる。
わたしの分身も上手いこと怯えながらあたりを伺う。
再不斬の声が不気味に響く中、急に恐ろしい程の殺気がわたし達を襲った。
木の陰にいたわたしもおもわず溢れそうになった気配を必死に押し殺す。
・・・上忍同士の戦い、想像以上のものだ。
いっそ死んで楽になりたいと思ってしまう程の殺気・・・
そんなときはたけ先生の分身がニッコリといつもの笑みを浮かべた。
「安心しろ、お前たちは俺が死んでも守ってやる。」
うちは君が目を開けて先生を見た。
「俺の仲間は絶対に死なせたりしないよ。」
それにほかの二人も、わたしもそれに少し安心した直後、
「それはどうかな?」
再不斬が卍の陣を組んだ下忍達の真ん中、タヅナさんの真正面に現れたのだ。
「終わりだ」