わたし達の組んだ卍の陣の真ん中に突然現れた再不斬。
わたしは水分身で入れ替わり、木の上に身を潜めたまま様子を伺う。
先生の分身が一瞬で再不斬の前へと迫り、再不斬をクナイで突き刺したけれども、その再不斬も水分身。
「先生!後ろ!!」
うずまき君の声を聞くも間に合わず、先生は後ろから再不斬に刀で切り裂かれるけれども再不斬が真っ二つに叩き切った先生も水分身。
再不斬の背後に現れたのは本物のはたけ先生。
驚く再不斬の首元にクナイをつきつけた。
「終わりだ」
上忍同士の圧倒的な戦い。
わたしなんかなら、一瞬で殺されていただろう。
「ククク・・・終わりだと・・・?わかってねーな。サルマネごときじゃこの俺様は倒せない・・・絶対にな!」
しかし、再不斬は先生にクナイを喉元に向けられても不気味に笑っていた。
「しかしやるじゃねーか。あのとき既に俺の水分身の術はコピーされてたってことか」
まだ再不斬はわたしの水分身には気づいていない。
ということははたけ先生がクナイを突きつけても余裕そうに笑って先生の分身のタイミングなどを話す再不斬にはおそらくまだ切り札が残っているハズ。
わたしは冷や汗をかきながらも“そのとき”のためにそっと印を組んだ。
「・・・けどな、俺もそう甘くはねーんだよ。」
その瞬間再不斬の体が一瞬で水となり、はたけ先生の背後に現れた。
先生は再不斬に蹴り飛ばされてそのまま川へと逃げ込む。
はたけ先生、演習の時といい、水遁使いとの戦いの時に水の中へ逃げ込むクセでもあるのだろうか。
水遁使いは水辺でこそチャクラを水に変化させる必要もなく真価を発揮できる。
この戦いはあまりにもはたけ先生に不利だ。
案の定先生は再不斬の水牢の術に囚えられた。
「はまったな。脱出不可能のスペシャル牢獄だ。お前に動かれるとやりにくいからな。」
水牢の術、水にチャクラを練りこんでその水の中に相手を閉じ込める術。
術者は牢ひとつにつき手がひとつふさがるけれども、それ以上にこの術の拘束力は優れている。
はたけ先生が自力で逃げ出すのは不可能だろう。
「さてと、カカシ。おまえとのケリは後回しだ。まずはアイツらを片付けさせてもらうぜ。」
そう言うと再不斬は水分身の術で分身を作り出し、卍の陣が崩れたまま呆然と戦いを見ていた下忍達の元へと送った。
それに怯む三人とタヅナさん。
「偉そうに額あてまでして忍者気取りか?だがな、本当の忍者ってやつはいくつもの視線を乗り越えた者のことを言うんだよ。」
そんな下忍達を見て不気味に笑いながらしゃべる再不斬。
「つまり、俺様のビンゴブックに載る程度になってはじめて忍者と呼べる。お前らみたいなのは忍者とは呼ばねぇ。」
その直後、再不斬は印を組み霧隠で身を隠してうずまき君をふっとばした。
そしてその拍子に外れたうずまき君の額あてを踏みつける。
「ただのガキだ。」
春野さんはうずまき君を心配して声はかけるけれども殺気に圧されて駆け寄りはできない。
うずまき君は地面に這いつくばったまま再不斬の殺気にただ怯えていた。
「おまえら!タヅナさんを連れて逃げろ!」
先生はそんなうずまき君の様子を見て水の中から怒鳴りつける。
「コイツとやっても勝ち目はない!この俺をここに閉じ込めている限り、コイツはここから動けない!水分身も本体からある程度離れたら使えないハズだ!」
確かに再不斬は先生を閉じ込めている限りその場から動けないし、水分身も本体から離れすぎると使えない。
でも、このまま逃げたとしてもはたけ先生がいない状態ではこの場はなんとかなってもいずれ再不斬に殺られて全滅。
卍の陣を組み直してもどうにもならないことは先ほど証明された。
つまり、先生をあの水牢の術から助け出すということ以外に選択肢はないのだ。
うちは君もそれには気づいていた。
うちは君は握っていたクナイを握り締めると再不斬に向かって走り出した。
それを見てはたけ先生はまた叫ぶ。
「“もういい”から逃げろ!早く!」
でも先生のその言葉を聞いてわたしはすぐに思考をやめて先ほど先生に告げられた指示に従うため行動を開始した。
わたしは印を組み作り出した水分身に変化の術をかけたタヅナさんそっくりの分身と共に再不斬が向かっていったうちは君の相手をしている隙に本物のタヅナさんのところへ忍び寄った。
タヅナさんを草むらからそっと呼ぶ。
「!?お前!」
「静かに!こちらを向かずに聞いてください。」
先生に指示されたこと、それは先生の合図で分身を使いタヅナさんを連れてこの場を逃げること。
わたしは自分とタヅナさんの分身をこの場に残してできる限り時間稼ぎをして遠くまで逃げる。
もしそれに気づいて再不斬が追ってきてもわたしの血継限界でしのいで木の葉に援軍を頼むこと。
うちは君があっさり再不斬に吹っ飛ばされる。
それを目の端で捉えながらも、タヅナさんに簡単にはたけ先生に言われたことを告げて、うずまき君がまた再不斬に突進した時にタヅナさんを分身と入れ替え二人で草むらに潜んだ。
「ナルトォ!」
無謀にも再不斬に正面から仕掛けたうずまき君に絶叫する春野さん。
でもうずまき君は止まらずにやっぱり再不斬にカウンターを決められて地面に転がる。
うずまき君は心配だけれども、今完全に再不斬の注意は彼に向いている。
タヅナさんとそっと一歩後退する。
「一人で突っ込んで何考えているのよ!?サスケ君でも適わなかったのに、いきがったって下忍のわたし達に勝ち目なんてない!!」
予想通りの結果になったうずまき君に春野さんがそう怒ったけれども、うずまき君がよろけながらも立ち上がり、その手に持ったものを見た瞬間、納得した。
うずまき君の手には、額あて。
「おい・・・そこの眉ナシ。おまえのビンゴブックに新しく載せとけ。いずれ木ノ葉隠れの火影になる男、木の葉流、うずまきナルトってな!!」
吹き飛ばされた額あてを巻き直して、さっきまでの恐怖の表情から一変していつもどおりの笑顔すら浮かべるうずまき君。
「サスケ、ちょっと耳かせ!作戦がある!」
「あのお前がチームワークかよ」
そんなうずまき君の様子にうちは君も普段の調子を取り戻して再び再不斬に立ち向かおうとする。
「さーて、暴れるぜぇ!」
そんなうずまき君を背後にわたしはタヅナさんを連れてその場をあとにする。
音を立てないように、気づかれないように。
でも、そんななかぐるぐる頭を回るのは別のことで、集中しなきゃダメなのに、ダメなのに・・・できない。
―本当にこれでいいのだろうか。
たしかに再不斬が水分身に気がついていない今、この方法をとれば任務のリスクは大幅に減る。
でも、そうすると、はたけ先生やうずまき君、春野さん、うちは君はどうなるんだろう。
はたけ先生は時間稼ぎに他の三人にわたしとタヅナさんを守るように指示を出すだろう。
そうすれば、わたしとタヅナさんはより遠くまで逃げられる。再不斬から逃げきれる確率は上がる。
でも、みんなは・・・
「おい、お前・・・」
タヅナさんに声をかけられてハッとする。
いつのまにかわたしは足を止めていた。
まだ、背後のみんなの声は聞こえる。
「お前ら何をしている!?逃げろって言ったろ!早く逃げろ!!」
はたけ先生はもうわたしがタヅナさんを連れて、ある程度は逃げていると予測しているだろうから、水分身が解けるのも時間の問題だと思っている。
そしてそのとき、再不斬の反応を恐れている。
水分身も使えなくなる程離れた敵を一刻も早く探すのを優先するか、邪魔な下忍達と自分を始末してからゆっくりと探すか。
おそらく後者。
そしてターゲットに逃げられたあとではいままでのような遊びも終わり、下忍たちは反撃の間も無く殺される。
「俺たちの任務は、タヅナさんを守ることだ!!それを忘れたのか!?」
その言葉にうずまき君も自分の優先すべきことを思い出し、タヅナさんの分身を見た。
「おっちゃん・・・」
タヅナさんの分身は俯いたまま何も話さない。
そんなうずまき君と同じようにわたしは、本物のタヅナさんを見た。
「・・・タヅナさん・・・」
「・・・ワシも、お前と同じじゃ。」
タヅナさんはニッカリ笑って振り返り、うずまき君たちの方へ向き直って再び彼らの方へ歩き出した。
「おっちゃん、俺ってば・・・!!」
そして何も言わない水分身のタヅナさんにしびれを切らしたうずまき君が駆け寄ろうとしたとき、本物のタヅナさんが草むらから立ち上がって叫んだ。
「すまなかったな!おめぇ達!!思う存分戦ってくれ!!」
思わぬところから現れた二人目のタヅナさんに驚く再不斬とうずまき君、うちは君に春野さん。
しかしすぐに状況を把握した再不斬が水分身で本物のタヅナさんを殺しにかかった。
「バカが!!」
まさかタヅナさんがいきなり立ち上がるとは思わなかったけれどもそれを見て直ぐにわたしは印を組んでいた。
「五行結界・守護の陣!」
間一髪でタヅナさんの周りにガラスのような壁ができて再不斬の剣を防いだ。
思わぬ物の出現に驚いた再不斬の水分身はタヅナさんから距離を取る。
そこで更にわたしは手裏剣を投げて再不斬の分身をタヅナさんから遠ざけた。
「な・・・どういうことだってばよ?」
驚くうずまき君、春野さんと納得した表情のうちは君。
そしてわたしも身を隠していた草むらから立ち上がった。
「!!なんでまだここに居たんだ!?」
はたけ先生が驚く。
けど、教えてくれたのは、はたけ先生だ。
「先生・・・四人なら、上忍にだって勝てるかもしれないんですよね」
「!!」
うずまき君はニッカリ笑って、うちは君はいつものように不敵に笑い、春野さんは不安そうにしながらも口元はさっきよりも緩んでいた。