「避けろ!ナルト!!」
堂々と登場しすぎて、案の定狙われたうずまき君。
「相手の正面から術をかける奴がいるか!…忍の本質は騙し。術ひとつかけるにしても相手の目を盗み、意表をかく。それにさっきの登場の仕方はただ的になりに来ただけだ!」
うずまき君はショックを受けていたけれども当然だ。
でも、うずまき君の登場に安堵したわたしがいるのも事実。
そんな間に敵側も会話をしていて、ハクという少年はうちは君とうずまき君で相手をすることになった。
再不斬はハクのことを甘いと言ったけれども確かにそうだ。
うちは君は傷だらけではあるものの、急所は外されて致命傷は無い。
しかし、ハクという少年の方が実力的にも経験的にも圧倒的に上なのはたしか。
はたけ先生は額あてに手をあてた。
「悪いが、一瞬で終わらせてもらうぞ」
ナルトやサスケの方へ行こうにも、再不斬が邪魔をする。
振り払おうにもそこまで再不斬は甘くない。
ならば、先生は再不斬を倒して二人を助けに行くしかない。
「写輪眼か。芸の無い奴だ。」
再不斬は笑って印を組んだ。
辺りが深い霧に覆われる。
この術は、霧隠れの術。
でも、それにしても霧が深すぎて視界はゼロ。
時折聞こえる戦闘中のみんなの声。
否、呻き
しかし闘いの飛び火は、30近くの結界に確実に降り注ぎ、確実にチャクラは削られる。
「…くそっ!」
わたしは、どうすればいい
春野さんに叩かれた頬がじんじん痛む。
大丈夫、今のわたしの判断は正しいんだ。
結界忍術の使い手がのこのこ前線に出ていって殺られる方が駄目なんだ。
わたしは何が起ころうとも最後まで守るべきものを守り抜く。それが、わたしの、結界忍術使いの役目、
でも、じゃぁなんでわたしは結界忍術じゃなくて、体術や忍術を修行してきたの…!?
こういうときの、ためではないの!?
そして頭に過るのはばあちゃんによって隠されていた母の遺言ー
ー違う、そうじゃない。
迷っているのがまず間違い。
チームワーク、それぞれの役割。
明らかじゃないか。わたしの役割は。
わたしはタヅナさんを危険から遠ざける、それだけ。
うずまき君もうちは君も救ってタヅナさんも守り抜くことがわたしにできるだろうか。
否、できる、できないではない。
うちは君とうずまき君が殺されようとも、余計なリスクを背負い込むのは避けなくてはならないんだ。
…でも、でももし、先生も皆も殺られたら…?
「うわああああぁぁ!!」
霧の奥から聞こえる二人の悲鳴。
春野さんの泣き叫ぶ声。
くそ、わたしは何をやってるんだ!?
おもむろにわたしは印を組んだ。
丑 申 卯 亥 酉 午 子 寅 …
戌!!
「五行捜界!!」
橋の上を、今張っている結界とは別に複雑な紋様が走りそのまま地面に吸い込まれるように消えていく。
「な、何!?」
春野さんが驚いてこちらを見るけれども答える余裕は無い。
五行捜界はさっき走った紋様の及ぶ空間のすべての動きを見通せる空間忍術。
術の発動中は印を崩せないのが難点だが、探索には役立つ。
深い霧で見えない橋の上の様子を探る。
はたけ先生と再不斬は交戦中。援護の必要は無い。
そして、うずまき君とうちは君。
二人とも傷だらけ。
ハクの術を破ろうと四苦八苦しているけれどもまだ術の秘密をわかっていない。
わたしはもちろんこの術でその仕組みはすぐにわかった。
ハクが先程作り上げた氷の鏡。
ハクはその自分だけを写す鏡の反射を利用して高速で移動して二人を攻撃する。
なんとかそれを二人に伝えたい。
でも、今わたしは両手が塞がっているし、声をかけるにしても距離がある。
たとえ、五行結界を使ってハクの動きを止めようにも印を組もうとすれば五行捜印まで解けてしまい五行結界を張るべき場所もわからない。
どうすればいい!?
この間にも二人はハクの千本に貫かれる。
そんなときふとハクの片手印が頭を過った。
片手でも印は組めるのだ。
本来、印は練り上げたチャクラを術に変換するためのもの。
五行結界はわたしが初めて覚えた術で、印を組む練習も散々やってきた。
もう、身体にしみついている。
…頭にも
わたしは意識を集中した。
頭の中だけで印を組む。
酉 子 辰 午
未!!
“五行結界!!”
…できた!!
ガキン、と大きな音を立ててハクは“なにか”に激突して地面に転げ落ちた。
ナルトがすぐに飛び掛かるが、相手は直ぐに立ち直りまた鏡の中へと逃げ込む。
「ちくしょー、逃げられた!!」
ナルトは悔しそうに地団駄を踏んだ。
「…今のは…?」
ハクが不思議そうに辺りを伺った。
ナルトが得意気に笑って「サンキュー、!!」とネタバラシするのを「このウスラトンカチ!」とサスケは詰ったけれども、今の結界でサスケは確信した。
やはり、敵は鏡と鏡の間を高速で移動していた。
ならば狙うは敵が鏡から出たところ!!
の援護は、来るとは思わない方がいい。は今回、何らかの形で結界を上手く張ったけれども、霧のせいでこちらは見えないだろうし今回のはマグレと考えた方が確実だ。なによりも今のナルトの発言でハクも“見えない壁”に警戒するだろう。
ナルトの影分身を利用して自分はタイミングを掴む!!
サスケは火遁の印を組んだ。
…よし、
うちは君の動きから、彼がハクの術の仕組みに気が付いたのは確実だ。
わたしはほっと一息ついたけれども、すぐに新たなことに気付いた。
五行捜印はわたしに新たな選択肢を示したのだ。
橋の作業に携わって、先に再不斬に殺られた波の国の人達のなかに、早急に手当てをする必要のある人がいた。一刻を争う容体の人は一人、急がなければ重い後遺症を残す可能性の高い人が三人。
このままうちは君達の援護をしていたら手遅れになる。
咄嗟に呼び掛けた。
「春野さん!手伝って!」
「手伝うって、何を?それより、サスケ君はっ!?」
春野さんは苛ついたように言うから逆に冷静に答える。
「うちは君とうずまき君は敵の術の仕組みはわかったハズです!それよりも、波の国の人で、このままだと死んでしまう人がいる!」
「なんでそんなことがわかるのよ」
「この術です!…お願い、早く!」
春野さんは一瞬迷ったけれども、タヅナさんを見て頷いて「私はどうしたらいいの?」と聞いてきた。
「…一度、結界から出てもらいたい」
「え!?それじゃぁ、」
春野さんが青ざめる。
「大丈夫!再不斬に危害を加えられないよう、わたしが結界でバックアップするから!春野さんはわたしの言う方向に真っ直ぐ走るだけ。結界はマーキングした味方なら自由に出入りできるから、怪我人の結界まで走り込んでそこで応急措置をしてほしい!」
「…わかったわ」
「急ぐ人は全部で四人。まず、ここから西側へ、真っ直ぐ25メートル程先の人から。」
春野さんは深呼吸してから思いきったように走り出した。走る春野さんの回りに先回りするように五行結界を張る。
幸いにも再不斬はこちらには来なかった。はたけ先生だけで今は手一杯のようだ。
わたしと春野さんは霧の中、静かに、確実に救護を行った。
途中仲間の悲鳴が聞こえるたびに春野さんは立ち止まったけれども実際に怪我人を前にしたらその人達の応急措置に専念した。
わたしは術の酷使によって確実にチャクラを削られたけれども、予想していたよりもずっと、自分はまだ、チャクラがあると気付いた。
そのとき、五行捜印がうちは君の急所を狙った攻撃を捉えた。
うちは君はそれに気付いているのに避けずに動けないうずまき君を庇うように立っていた。
わたしは自然と、うちは君を守る小さな結界を作る。
すべては庇いきれなかったけれども、うちは君は致命傷だけは負わずに済んだようだ。
でもすぐに春野さんが結界から出たからそちらに集中する。
考える前に身体が動く、そんな不思議な感覚の中、最後の1人も無事に治療を終えた。
そして、霧は明ける。