TOP



カブトさんはナルトとサクラが巻物を開けようとしたところを止めてくれたらしい。
巻物を開ける、ということは二次試験のルール違反。カブトさんは巻物を開けて試験が終わるまで動けないほどにノックアウトされた他の受験生を見たようだ。
しかし、そうなると疑問は残る。
カブトさんは何故、ナルト達を助けたのか、そして、その際に何故、わたし達の「天」の巻物を奪わなかったのか。
サスケがそれを尋ねると、カブトさんは懐から「天」と「地」両方の巻物を取り出した。
「いろいろあってね、僕は他のチームメイトと落ち合うために塔へ向かう途中だったんだ。」
その二本の巻物を見て、サスケの目の色は変わった。
わたしは、興味がなさそうにふるまい、そっとホルスターに手を突っ込んだ。
「それじゃぁ、僕はもう行くよ」
そう言って立ち去ろうとするカブトさんをサスケは引き留めた。
「俺と、戦え!」
カブトさんは分かっていただろうに、とぼけたように笑いながら「戦う?」とサスケに振り返った。わたしはそっと溜息をついた。
当然、ナルトとサクラは助けてもらった手前、サスケのその言葉に反発するけれども、この状況なのだ。
残り日数は少なく、巻物が余っているのかも怪しい状況。そして、一人でやってきて、巻物を揃えているカブトさん。
二次試験に受かる確率を高めるためには、ここでカブトさんから「地」の巻物を奪うしかない。
・・・でも、サスケは根は真面目なのだろう。わたしがここでサスケのように言わなかったことと比較すると。
カブトさんがサスケの目を見て、「本気かい」と余裕そうに尋ねた。

「悪いな。だが、俺達には時間がない…手段は選べない。」

止めようとするナルトとサクラに、そして自分に言い聞かすようにサスケは言い切った。

「前に言っただろう。この森で生き残るにはこうするしかない、ってな」

「嘘だね。」

だがそんなサスケの言葉をあっさりカブトさんは否定した。

「もし君が本気で僕から巻物を奪うつもりならば、何故僕に戦え、なんて言ったんだい?何も言わずに僕が背を向けたところで巻物を奪うほうが確実じゃないか。それが忍者だろ?・・・そこの彼女のように、ね。」

カブトさんが笑顔でこちらを見るから、わたしはバレてた、と舌を出してホルスターから手を放して見せた。
ナルトとサクラがじと目で見てくるけれども、仕方ないじゃないかとこちらも目で訴える。
しかし、どの道カブトさんからは巻物は奪えなかっただろう。
この人はとんでもなく頭の切れる人のようだ。
・・・中忍試験に何度も落ちていることが嘘のように。
カブトさんはわたしが何もしないとわかるともう一度、サスケに向き直った。

「でも、嫌いじゃないよ、君みたいな人もね。だから、少しいいことを教えてあげるよ。・・・ただし、移動しながらね。火のないところに煙は立たない、魚を焼いた匂いがもう遠くまで広がっている。野生の動物や敵がここを嗅ぎつけるのも時間の問題だ。」

その後、カブトさんを先頭にわたし達は「天」と「地」二本の巻物を持って行くゴール地点の塔へと向かっていた。
確かに、残り日数が少なくなれば受験生も減るわけで、そういった中で他の受験生に会うにはゴール地点近くの方が確率が高い。
また、二本揃えた受験生がゴールを目指してやってくるとなると、巻物を奪う絶好のチャンスとなる場所だ。
そのチャンスに浮かれるサクラとナルトをカブトさんは、逆に敵も多くなる場所でもある、と諌めた。
同じように考え、巻物を求めてやってくる者や、巻物を揃えていてもライバルを減らすために戦いを挑んでくる者もいるだろう。
熾烈な争いとなることは火を見るより明らかだ。

「なるほどな。やっと何故お前が俺達の前に現われたかがわかったぜ。お前も、ここを通り過ぎる際の敵を恐れていたわけか。」

「そのとおりさ」

「わたし達が戦力になれば、ですけれどもね。」

わたしがそう笑うとカブトさんも意味ありげに笑った。
わたし達より経験のあるカブトさんだ。火を焚きっぱなしにするようなルーキーを四人連れてまでしなくとも、一人で静かに潜みながら塔へ向かおうとは思わなかったのだろうか。
それとも、そんなに潜む敵が多いのか、強いのか・・・
最悪オトリにされかねないのでは、とわたしは疑ってしまう。
そんなうちに、わたし達はようやく塔の見える場所まで来ていた。
ナルトが大きなムカデに騒ぎ、クナイで止めを刺したが、それをカブトさんが注意した。
「森をゾウのように大きな音を立てて歩くと、僕たちがどこに居るのかの情報をすべて敵に教えてしまう・・・ここからは、できる限り音を立てずに進もう。」

ここからが、本番なのだ。
危険地帯を前に皆真剣な顔でうなずいた。



もう、どのくらいたっただろうか。
チャクラ切れからまだ完全には回復していなかったせいか、わたしの足もとはふらついてきた。
しかし、迷惑をかけるわけにはいかないと必死に足に力を入れる。
すると前を歩いていたサクラがついに倒れた。

「サクラ!」

わたしは慌ててサクラを支える。

「もう、どれだけ歩いたの…?私達、ちっとも塔に近付かないじゃない。」

サクラの嘆きに近い呟きにわたしもつられて塔を見ると、確かに最初と全く変わらない距離に塔が見える。
まるで、まったく進んでいないかのようだ、と思わず空を仰いだ時に、視界に思わぬものが入った。

「みんな、あれ・・・!」

わたしが指さした先を見て、全員が息をのむ。
サスケの「幻術か?」という呟きにカブトさんは頷いた。

「そのようだね・・・完全にやられたよ。どうやらぐるぐると同じ所ばかり歩かされていたみたいだね。」

「わたし達を疲れさせたところで、巻物を奪うという作戦かな・・・となると、どこかで見張られている可能性が高い・・・」

わたしは陣の中ならば全てのものの動きがわかる五行捜界を使おうと印を組むけれども、それは途中で遮られた。
手裏剣が飛んできたのだ。

「敵のお出ましのようだね…!」

いつのまにか、わたし達はたくさんの敵に囲まれていた。