塔の中の広い場所に、二次試験合格者達は集められていた。
なんと、わたし達の同期は全員合格していたようで、周りには見知った顔がたくさんある。
それは、試験官達の方も同じで、二次試験試験官の女の人や、カカシ先生、ガイ先生、紅先生・・・とわたしの知っている上忍の先生がそろっていた。
そんな中、火影様から中忍試験の役割、戦争の縮図などの説明があり、その後、今からここで、三次試験の予選がはじまることとなった。
三次試験には他の里からの見物客も来る。それには今の人数では多すぎるのでこの予選で本選に出る人を決めるのだ。
試合形式は1対1の模擬試合。
わたしはぼんやりと、ライバルとなった人たちを見回した。
明らかにヤバイ雰囲気の瓢箪を背負った砂の忍や、“あの”日向ネジとは戦いたくないなぁと、ガラにもなく少し弱気になってしまう。
そして、試験官がこの時点で棄権する人を確認すると、なんと、カブトさんが棄権すると申し出た。
ナルトやサクラが驚き、止めようとするけれども、カブトさんは苦笑して立ち去った。
最初の試合は、サスケだった。
相手はカブトさんのチームメイトの、木の葉の先輩。
サスケは、なんだか本調子ではないようで、様子がおかしかったが見事勝利をおさめた。
そして、カカシ先生に連れられて会場を去った。
それをサクラとナルトが不安げに見送る。
わたしも、サスケの容体が気にはなったが、スクリーンに写った文字を見て、人の心配をする余裕は無くなった。
vs
イコ
スクリーンにそう表示されるのと同時に、音隠れの額宛をつけた少女がひょいっと二階から試合会場へと飛び降りた。
わたしの相手はどうやら彼女のようだ。
少し離れた所にいた八班の面々が、ヒナタは心配そうに、キバは笑顔で、シノは相変わらずの無表情でわたしを見たから大丈夫と頷く。
サスケに夢中だったナルトとサクラはようやくスクリーンに写ったわたしの名前に気づいてわたしを見た。
少し、胸がツキンとしたけれども、気づかないふりをする。
「!アイツらなんかちゃちゃっとやっつけちゃえってばよ!」
「うん、彼らにはうちの班もお世話になったみたいだしね。」
話に聞いたところでは、サクラが髪を切る原因にもなった音隠れの忍達。
わたしは直接やりあったりはしていないが、因縁はある。
サクラが不安そうにわたしを見た。
「、気をつけてね」
「うん、いってくる」
サスケとカカシ先生は今はいないし、ビシッと決めないと、とわたしは先程まで感じていた、昔からの感情を封印した。
そして気合いを入れて、試合会場へ飛び降りた。
「アタシの相手はアナタかぁ〜へぇ〜」
わたしの試合相手の音忍の少女は場違いな声でわたしを値踏みするように見た。
わたしも同じように彼女を見る。少女は背中に自分の背丈ほどある大剣を背負っている。
クナイじゃあれは防げないだろう。
試験官の月光ハヤテが「試合開始!」と合図を出したが、わたしも少女もすぐには行動に出なかった。
「ねぇ、アナタ名前は?」
「…」
答えないでいると、少女は口を膨らませて拗ねたようにする。
「感じ悪ーい!ま、いいや。だよね?さっきそう呼ばれてたし、書いてあったし。アタシはイコ。よろしくね〜」
イコと名乗った少女は早速とでもいうかのように背負っていた大剣を構えようとした。
そこを狙って手裏剣を投げるがそれは予想外に早かったイコの大剣に弾かれた。
「大剣使いは動きがトロイとか思った?ざんねんでしたー!」
まるで傘のように軽々と大剣を振り回しながらイコはこちらに駆けてくる。
速い。
わたしも咄嗟に何もない左腰に手をやり‘得物’に手をかけた。
「なんのパントマイム?それっ!?」
大剣が降り下ろされる。
切り札はとっておくものだけれども、出し惜しみしすぎてやられちゃ手遅れだ。
―結界妖刀 古梅!
わたしがまるで本当にそこに刀があるかのように、刀を抜く仕草をすると、それに合わせてみるみるとガラス板のような透明の刀身が現れてクロの大剣を受け止めた。
「口寄せ…じゃない?なにその術!?」
刃と刃で競り合いながらも興味津々と聞いてくるイコにはだいぶん余裕があるようにみえる。
この馬鹿力がっ!
渾身の力を込めてわたしはイコを弾いて距離をとる。
この術はわたしが死の森でチャクラ切れでへばっていたときに、蛇男のようなカタナ使いを相手にするにはクナイではリーチ的にも不利であったという反省から考えだした術だった。
原理は五行結界と全く同じで、ガラス板のような五行結界を刀のような形で作り出すというだけのもの。
でも強度はわたしのチャクラが続く限りは壊れないのでかなり強いし、身軽さを要求される忍者にはもってこいの術だとこれを考え付いた時には自画自賛した。
難点は、わたしは体術の修行していたけれども、剣術についてはほぼ素人であるということだろう。
「面白い術!…そうだ、わたしも剣術だけじゃないんだよっ」
イコが印を組もうと大剣を地面に突き刺した隙にわたしも素早く印を組んだ。
水遁・水線華の術!
チャクラを水に変えて岩をも切り裂く水流でイコを狙うが、彼女は印を組むのを止めずに大剣の後ろに隠れた。
流石にその大剣は貫通出来ずに水が弾かれ飛び散ったとき、
「完成っ!土遁・土龍弾!!」
龍の頭の形をした大きな土石流が猛スピードで襲いかかる。
ダメだ、土遁は水遁の術じゃ相性的に返せない…!
大きな爆音の中サクラとナルトがわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
―けれども、心配ご無用だ―
家は結界忍術のエキスパート。
防御でこそその真価を発揮するのだから。
土遁の土埃が晴れて、でも傷一つ無く立っているわたしを見てイコは楽しそうに笑った。
「へぇ、どんな手品を使ったのかわからないけど、よくあの術を凌げたね。」
また素早く大剣を構るイコ。
あの大剣をまともに受けたら腕がイカれる。
わたしは大剣を受けるのではなく、彼女の一撃一撃を受け流すことに変えるが、やはり力の差か追い詰められていく。
このまま彼女のペースに合わせるのも駄目だと、わたしは
わざと左に隙を作る。
「もーらいっ!!」
イコはそれを逃さず上段から斬りかかってきた。
ガァン!!
「うっそ…」
しかし、イコの大剣はわたしの肩口の一センチ上で見えない壁に阻まれ、反対にわたしの結界妖刀・古梅がイコの左肩を切りつけた。
五行結界、
イコはそのガラス板のようなものを確認してから古梅を肩口から引き抜き後退した。
「…そんな術、しらない…よ…!!」
「そうでしょうね。…一応血継限界ですし。」
傷口を抑えながら悔しそうに言うイコ。
上でこの試合を見ている受験者達もざわざわとしていた。
わたしはあまり好んで結界術を使っていなかったから、木の葉の同期でもあまりこの五行結界について知っている人はいない。
この試合は予選であるから、本戦で当たるかもしれないライバルがいる中であまり手札を見せるのは良くはないとは思ったけれども、それよりも今は自分の実力を試したかった。
サスケのあんな試合を見た後なのだ。
ちょっとした対抗心もあったのかもしれない。
まだ肩口を抑えているイコにわたしは不敵に笑って挑発した。
「棄権するなら今のうちですよ」
わたしは古梅を納めて印を組始めた。
そのスピードに驚いたイコは土遁では間に合わないと焦って「させるか!」と大剣でこちらに突っ込んできた。
「くっそ、」
わたしは印を組むのを止めてまた古梅を出してして受け流す。
「棄権するなら今のうち!?こっちのセリフだよっ!!」
イコは馬鹿にされたと怒りに任せて大剣を振るう。
それを往なしながらわたしは不敵に笑った。
「どうでしょう?ま、時間ももったいないし、さっさと終わらせよっか。」
わたしは更に彼女を挑発して、一度後ろに飛び退いたら、今度はわたしからイコに突っ込んで行った。
「アタシをなめんな!!」
イコは力の差を考えずに突っ込んで行ったわたしに、更にイラついたようだけど、残念。
わたしもそこまでバカじゃない。
イコの大剣が振るわれる直前、わたしは空へと駆け登った。
「なにっ!?」
五行結界は何も盾として使うだけじゃない。
わたしは結界を階段のようにして上へと登ったのだ。
イコもすぐにそれを理解して腰を低く構えた。
「バーカ!空中じゃ避けられないよっ」
イコは落下しながらも古梅を構えるわたしに狙いを定め、切り裂いた。
「ほんっとうに、さっさとおわったね…ぇ!?」
「うん。これで終わり。」
切り裂かれたわたしはバシャリと水になった。
水分身だ。
そしてわたしの本体は上へと気をとられていたイコの懐に飛び込み、思いっきり顎を殴り上げた。
「ああああぁぁぁっ!!!」
深い霧の中心でイコは絶叫した。
そのときイコはようやく上空の深い霧に気がついた。
顎を殴られてぐわんぐわんと回る意識の中、イコは地面に仰向けに倒れた。
「あのとき、術は完成してたってこと、かぁ」
は頷いた。
「霧隠れの術。上空をその霧で覆って、あとはあなたの考えている通りだと思うよ。」
「上空に登って、霧の中で…水分身と入れ替わった…」
「そのとおり」
はニッコリ笑った。
「わたしの勝ち、ですね」
勝者、