Odysseus
旅は道連れ


ユーリが次の部屋のドアノブに手をかけた時、ガチャリとドアは、向こう側から開いた。
敵かと身構えるとドアの向こう側に居たのはユーリよりも年下に思える、おそらくエステルと同年代くらいの少女であった。
その少女もユーリ達に驚いたようであったけれども彼等がこの屋敷の者では無いと格好や状況から悟ると「あのっ、」と怯えながらも口を開いた。

「あのっ、女の子、見ませんでしたか!?」

女の子、と少し考え込むカロルにエステルがぽん、と手を打った。

「もしかして、ラゴウに連れて行かれた子供達のご家族の方、でしょうか?」

「にしてはけったいな格好しているけどな」

ユーリの言葉に皆は改めて少女を見た。
少女の海兵のようなセーラー服、そして銃剣を背負った妙な格好は、そのか弱そうな容姿とのアンバランスさから町人というよりは大道芸人のような印象を受ける。
でもここは港町でもありますし、とエステルはユーリに言うと、少女の手を取り「私達も子供たちを助けに来たんです。よろしければ一緒に行きませんか?」と同行を申し出ていた。
ちょっと、とリタが止めようとするけれども「まぁ、敵じゃなさそうだし時間もないんだしいいだろ」とユーリがなだめた。
「それに、戦えねぇわけでもないみたいだしな。」
カロルははっとこの部屋の様子を確認した。部屋にはたくさんの魔物の死骸。
銃による弾痕と切られた後から、銃剣を持っている彼女が始末したことに間違いはないだろう。
少女はぶつぶつと、手分けするよりも魔物を皆で一掃する方が早いかな、などと呟いて「足手まといにはなりませんのでお願いします」とペコリと頭を下げた。

「よろしくお願いしますね。私、エステリーゼといいます。どうぞ、エステルと呼んでください。」

「ボクはカロル!よろしくね!」

「エステル、カロル、よろしくお願いします。」

二人ににこりと笑いかけるとは今度はユーリ達の方へと向き直る。

「…リタよ。リタ・モルディオ」

「オレはユーリだ。で、こっちはラピード」

「ワン!」

はラピードに少し驚いたようであったけれどもすぐにまた笑顔に戻った。

「リタ、ユーリ、ラピード。申し遅れました。わたしはです。」

こうしてとユーリ達一行は共に行動することとなる。
再び一行は薄暗い屋敷の中を探索した。
カロルはと並んで歩きながら聞いた。

はいつからこの屋敷に入ってたの?」

「えっと、みなさんと会うほんの少し前からです。その…一緒に行動していた女の子とはぐれてしまって…」

それで、ここに子供が連れて行かれているという噂を聞いて…とは顔を伏せた。
道中で、魔物の骨に混じって人間の骨まであるところがあった。
この屋敷で何があったのかは彼女もおそらく想像はついているのだろう。

「そのアンタの探している子とはぐれたのはいつなのよ?」

リタが興味なさそうに、でも確認するように聞く。

「この町についたときは一緒だったんです。でも、一緒におでんを作って…わたしがお片付けをしている間にその子はいなくなったので…そんなに前ではないんですけれども…」

「それ、ただの迷子だろ・・・」

ユーリは呆れてつっこんでしまった。
片付けの間という短時間でこんな危険な屋敷に女の子がどうやって入り込むというのだ。警備も厳しいのに。
どうせそこらへんの公園とかで遊んでるんじゃないのか、という疑問はもちろんリタにも浮かんだわけで。

「なによそれ、バカっぽい。ここにその子が来たって証拠もないのにこんなとこまで探しに来たわけ?」

するとはどこか得意げに「いえ、パティは絶対にここに来ているハズです」と答えた。

「だってパティはいなくなると必ず一番危険だったりおかしなところに居るんです。」

そのまま「洞窟の奥深くや、ジャングルの木の虚、この間は魔物のおなかの中からわたしを呼んでいましたし。」とつらつらと言う彼女に一同は驚きを隠せない。

「ずいぶん手のかかる奴なんだな」

ユーリの感想にみんなうんうんと頷いた時、背後から複数の気配がした。

先程までの和やかな雰囲気をすぐに切り替えて皆それぞれ戦闘態勢に入る。
背中に背負っていた銃剣を構えるにユーリは「お手並み拝見、といくか」と声をかけるとは「はい」と頷いた。
現われた魔物達はかなり数が多い。
は銃剣を構えまだ距離があった魔物達に銃撃で先手をとった。

「行きます!マーシレスハント!」

銃弾が魔物達を貫きそれらが足を緩めた時に前衛のラピード・カロル・ユーリは駆けだした。
は後衛のエステルとリタの前に立ち射撃で前衛を援護しつつ、前衛の攻撃をかわし詠唱中の二人に襲いかかろうとする魔物達を銃の先についた剣で薙いで彼女らを守っていた。
中距離戦闘ができる奴がいなかったからちょうど良かったのかもしれない、とユーリが彼女を観察しているとその隙に魔物の鋭い爪が彼の左腕に突き刺さった。
痛みですこし怯んだがすぐにその魔物をユーリは倒すとも最後の魔物に銃剣を突き刺し、止めをさしたところであった。

敵がいなくなり少し落ち着いたところでユーリの腕から流れる血を見てエステルが「すぐに治療しますね!」と駆け寄ろうとするとそれは銃の先についた鋭い刃に阻まれた。
が銃口をユーリに向けたのだ。
!?」
カロルが叫びリタが「やっぱり怪しいと思ったのよ!」とラピードと共に戦闘態勢に入るのをものともせずに、はその引き金を引いた。

「キュア・バレット!」

ユーリはあまりの至近距離からの攻撃によけ切れずにいると、放たれた銃弾はユーリに着弾する寸前に温かな光と共に破裂した。
その光は、ユーリを包みこんで先程の傷を癒していく。

「…え?」

エステルがポカンとしていると、ユーリは血の流れていた腕をぶんぶん振って「治ってる」と言った。

「治癒術?」

リタが途中まで行っていた詠唱を取りやめて驚いてに尋ねるとは銃剣をまた背中に担ぎなおしながら頷いた。

「はい。術式を刻んだをスロット使って術を使っているんです。」

ぽかんとする皆に「どうしたんですか、行かないんですか?」と何事も無かったように尋ねるにユーリは「まぎらわしいんだよ」とため息をついた。
が、もちろんリタは怒り狂うわけで。

「そういうことははじめに言いなさいよね!!吃驚したじゃないの!!」

とゴチン、との頭に一発決めたのだった。



スキット

不器用?器用?

リタ「ちょっと、説明しなさいよ!」

「あぁ、術についてですか?この銃剣自体は普通の武器です。ただここのスロットに細工があって、さっき言った通り術式をそれぞれ刻んでいるんです。」

リタ「見せて!…なるほど、スロットを回転させて使いたい術の術式を刻んだホールに合わせて打ち込む時にエアルをこめるのね…てか、アンタ一体どうなってるの?」

エステル「どうって、どういうことです?」

リタ「こんな方法で術を使うなんて、普通に術使う方がエアルのコントロールも簡単だし、スロットにいちいち術式刻む手間もかからないじゃない!ってことよ!」

「えへへ…なんかわたし不器用で、普通に術が使えないというか…術式覚えられないっていいますか…」

リタ「不器用って言うか、逆にここまでくると器用よ」

エステル「確かに、こんなに細かく術式を掘るなんて…すごいです」

「そうなんです!これ、ほんとに大変なんですよ!これ作るまで毎晩毎晩夜なべして…労働基準法に違反しまくりでした!」

リタ「あーもう!そうじゃない!てか、なによそのロードーキジュンホーって!?」

「あ!えっと、わたしの脳内会議で定められている労働者のための法律です。」

エステル「のうないかいぎ…です??」

リタ「あー!!もういい!ほら、行くわよ!!」

エステル・「「??…はーい」」


加入後、ラピードにが治癒術を使用 

カロル「って治癒術も使えたんだね。」

「はい。簡単なものしか使えませんが一通りはなんとか。」

ユーリ「治し方に難有りだけどな。」

「うっ、すみません…どうも普通に術が使えなくて…」

カロル「でも確かに、治癒術とはわかってても銃口向けられるとちょっと怖いかも…」

ユーリ「さっきラピード、避けてたしな。」

ラピード「ワフ」

「うぅっ!ご、ごめんなさい、ラピード。…!そうだ!次からは怖くないように後ろからこそっと撃ち込みますね!」

カロル「えっ!なんかそれはそれで怖いような…」

ラピード「クーン…」