Odysseus
一期一会





とユーリ達が共に行動をはじめて、2、3個目の扉を開けた時、天井から吊るされている少女を見つけたのだ。

「いい眺めなのじゃ〜」

「だ、誰!?」

驚くカロルと一緒には目を見開くと、その少女に駆け寄った。

「パティ!」

少女はに気づくと、吊るされている状況にも関わらず呑気に、「!どこに行っていたのじゃ?探したのじゃ。」と笑った。

「わたしもだよパティ!心配した!無事で良かった!」

の探していた少女は思いっきりぐるぐる巻きにされて捕えられているけれどもまぁ無事といえば無事なのだろうか。
ユーリは身長が足りずに四苦八苦しているを助けてパティというらしい少女を開放した。

「ったく、いったい何してたんだ?」

「見ての通り、高みの見物をしていたのじゃ」

「ふーん、俺には捕まっているように見えたけどな。」

「そんなことないのじゃ。」

ユーリの皮肉をものともせずにかわすパティという海賊のような格好をした少女。
彼女がの探していた「女の子」で間違いないようだが、これまた厄介そうなのが増えたと、内心リタはため息をついた。

「こんなの略取・誘拐罪だよ!パティ、怪我はない?」

なんだかお怒りの様子のにユーリが茶化すように言う。

「誘拐罪って…お前まさか騎士とか言いだすんじゃねぇだろうな?」

「いえ、その…わたしの脳内法律です。わたしは騎士ではないですよ。善良な一般市民です。」

「善良な一般市民のツレが執行官様のお屋敷に不法侵入ってか?」

「うっ、今回は、その…きっとパティも道に迷ったんです!」

の苦しいフォローのなか、それが聞こえていなかったのか、カロルがパティに問うた。

「ねぇ、こんなところで何してたの?とはぐれたって聞いたけど?」

「はぐれたのはなのじゃ。うちはお宝を探してたのじゃ。」

エステルは苦笑いではぐれた、というを見るが、彼女はこんなことに慣れているのかなんとも思っていないようだった。
そして、リタは「お宝探し」に食いついた。

「あの道楽腹黒ジジィのことだし、そういうのがめてても、不思議じゃないけど・・・ってか、アンタ達普段何してんのよ?」

確かに、海賊風の装束のパティと、海軍のようなセーラー服を纏うは、一緒に行動するにもなかなか珍妙な組み合わせであった。
パティはその質問を待っていました、とでもいうかのように得意げに答えた。

「うちは冒険家なのじゃ。」

「ふーん。で、お前は?騎士じゃなくて冒険家ってか?」

ユーリが白い目でを見て尋ねるとはぶんぶんと首を横に振った。

「ち、違います!わたしは…その…えっと…」

なんだか言いよどむにパティは駆け寄って助けた。

はウチのおともなのじゃ!」

はぁ?とリタが訝しそうにパティとを見る。
なんというか、どう見てもおかしい。
カロル位の年の少女とエステル位の年の少女が二人で冒険?
はそんな皆の視線を受けてあわあわと説明をはじめた。

「わたしっ、その、パティに助けてもらって…それで、いろいろあって一緒に冒険させてもらってるんです」

「そうなのじゃ!は…ウチとおんなじじゃったからな!」

よくわからないけれどもなんだか仲良さそうに顔を見合せて笑う二人をみてユーリはため息をついた。
二人揃って訳け有りそうだが、有害ではないだろう。

「と、ともかく、女の子だけでこんなところウロウロするのは危ないです。」

「そうだね、僕たちと一緒に行こう!」

エステルの提案にカロルが頷くけれども、パティは渋る。

「うちはまだ宝も何も見つけていないのじゃ。」

そんな彼女に呆れてユーリが「人のこと言えた義理じゃないが、おまえ、やってること、冒険家っていうより泥棒だぞ。」とツッこむが、やはりパティにはそんな言葉ものれんに腕押し。

「冒険家というのは、常に探究心を持ち、未知に分け入る精神を持つ者のことなのじゃ。だから、泥棒に見えても、これは泥棒ではないのじゃ。」

そんな屁理屈にユーリは呆れる。

「ふーん、なんでもいいけど。ま、まだ宝探しするっていうなら止めないけどな。」

そう言って、踵を返す。するとがなだめるように「パティ」と言う。パティはしばらく考えたあと、ポン、と手を打って皆に言った。

「・・・!たぶん、このお屋敷にはもうお宝はないのじゃ!」

そんなパティの代わり身に苦笑いしてカロルがユーリに「一緒に来るってさ。」と告げると、ユーリはわかっていたから、「それじゃ、行くか・・・」とこの少女たち二人とともに向かうこととした。
だが、行く手を阻む敵は魔物だけではなかった。

「侵入者ァァ!!」

ドアを開くと、警備のおそらくギルドの人間が四人、襲いかかってきたのだ。
パティは拳銃をくるくると回して戦う気満々のようだ。

、支援は頼んだのじゃ!」

「う、うん!」

そんなパティをユーリは「大人しくしてろ」とさりげなく後ろにおいやり、敵に向かう。その間には後衛の位置まで下がった。
は銃剣のスロットを交換する。

「スロットチェンジ!エンジェルスロット!」

交換したスロットを回して、エアルを装填、それを天井に向けて撃ちこんだ。

「フィールドバリアー!」

ユーリ達前衛の真上で弾ははじけて光が彼等を包みこみ、守るバリアーとなる。
ラピードがこの守りで敵の攻撃に怯まず一人を足止めする。ユーリとカロルで上手いこと挟みうちにして一人を相手し、リタとエステルの魔術がもう一人を攻撃する。
そんな攻撃中、敵の一人の短剣使いの男が前衛をすり抜けた。ユーリやカロル、ラピードが追おうとしても他に手をとられ、前衛は誰もカバーできない。
男は補助魔術を駆使するに狙いを定めたようだったが、ユーリはなら大丈夫だと思っていた。
エステルやリタよりも完全に後衛ではない彼女なら銃剣でなんとか凌げるだろうと思ったのだ。
だが、パティは焦ったようにを呼び、拳銃をあわてて取り出すが、急ぎ過ぎて逆にもたついていた。

っ!」

は銃剣の銃口を男に確実に向けていたから皆、目の前の敵の相手をしながら何故パティがそうも焦るのかわからなかったのだ。
リタの魔術が発動して、残った敵は、の方へ向かった男のみ。
その男にもすでにだいぶんダメージを与えていたから、皆もう終わりだな、と思っていたのに、は、引き金を引いていなかった。
不審に感じ、ユーリはの方へ駆け出すが男の振り上げたナイフに、無抵抗なが殺られるのには間に合いそうにない。

!」

「なにしてんだ!おい!!」

エステルとユーリの声にハッとしては、銃剣を回転させて剣の付いている銃口から、持ち手の方を敵に向け、殴った。もちろんそれは、短剣よりはリーチがあったからその男を怯ませることはできたが、致命傷にはならない。
体勢を立て直した男が再び短剣を構え直したときにはユーリが男を後ろから切りつけていた。
男が重力のまま、の方へ倒れこむのをは後退り避けた。

「アンタ馬鹿!?なんで早くトドメ刺さなかったのよ!?」

リタが駆け寄りを怒るが、パティが駆け寄り、「はまだ戦闘に慣れてないから仕方ないのじゃ!」と彼女についた返り血を拭いながら庇ったけれども、ユーリはの銃剣を持つ手が震えているのに気づいてしまった。

「ごめんなさい。ご迷惑をおかけして…リタ、心配してくれて有り難うございます。」

「べっ別に、そういう訳じゃないからっ!」

はそんな震える手とは裏腹に、真っ赤になって照れるリタに微笑んだ。

「怪我はないです?」

「ヒヤヒヤしたよ」

エステルとカロルにまた有り難うと反しては先程から黙っていたユーリに「有り難うございます。助かりました。」とペコリと頭を下げた。

「お前…」

「皆怪我も無いようじゃし、出発なのじゃ!」

ユーリが何か言おうとするのを遮るようにパティは元気よく駆け出す。
ユーリはに言おうとした言葉を飲み込んで、「気を付けろよ」とだけ言い、が頷くのを確認して「行くぞ」と歩きだした。
すると、ラピードはぴったりの傍にくっついて歩き始めた。

「ラピードまで…有り難う。」

は嬉しそうに微笑む。


後ろに倒れる屍も、今だけは忘れよう。
心配はかけたくない。
歩きながら、ユーリが思い出したように話しだす。

「こんな危険な奴らがいる中、よく一人でウロウロしてたな。」

「危険を冒してでも、手に入れる価値のあるお宝なのじゃ。」

パティの言葉にカロルは興味津津だ。

「それってどんなお宝!?」

「アイフリードの残したお宝なのじゃ」

えへん、というかのように胸を張ってパティは答えた。

「アイフリード!?」

「アイフリードって、あの大海賊の?」

驚くカロルとエステルにユーリが「有名人なのか?」と尋ねるとカロルがそれにも驚く。

「知らないの?海を荒らしまくった大悪党だよ!」

エステルが本を読みあげるようにアイフリードについて説明をした。

「アイフリード…海精の牙という名のギルドを率いた首領。移民船を襲い、数百人という民間人を殺害した海賊として騎士団に追われている。その消息は不明だが、既に死んでいるのではと言われている、です。」

「ブラックホープ号事件って呼ばれているんだけど、もうひどかったんだって。」

カロルの付け足しの説明に「ま、そう言われとるの。」とパティは不満げに答えた。

「・・・?どうしました・・・?」

それが不思議でエステルは首を傾げるけれどもパティは「なんでもないのじゃ。」と顔をそむけた。

「でも、あんたそんなもん手に入れて、どうすんのよ?」

「どうする・・・?決まってるのじゃ。大海賊の宝を手にして、冒険家として名を上げるのじゃ。」

リタの問いに今度はパティは嬉しそうに表情を変えて夢を語った。そんなパティをまだ訝しがってユーリは聞く。

「危ない目にあっても、か?」

「それが、冒険家という生き方なのじゃ。」

そんなパティにユーリも思わず笑った。

「ふっ・・・おもしろいじゃねぇか。」

「おもしろいか?どうじゃ、うちと一緒にやらんか?」

パティは嬉しそうにユーリを旅に勧誘するけれども、もちろん、ユーリには下町の水道魔導器の魔核を取り戻すという目的があったので、あっさりと断った。

「性には合いそうだけど、遠慮しとくわ。そんなに暇じゃないんでな。」

「ユーリは冷たいのじゃ。サメの肌より冷たいのじゃ。」

しょぼん、とするパティをが肩をぽんぽん、と叩いて慰める。
けれども、案外パティには答えていなかったようで、すぐに笑顔になった。

「でも、そこが素敵なのじゃ」

カロルが驚いて、そして何かに勘付いて控えめに、でも確認するように聞いた。

「もしかして、パティってユーリのこと・・・」

「ひとめぼれなのじゃ」

あっさり、と言い切ったパティに一同は呆れるというよりも感心すらしてしまった。
リタは冷静に、「やめといた方がいいと思うけど」と呟くけれども、すぐに、今回このラゴウの屋敷に乗り込んだ目的を思い出して、いつまでもグダグダする時間はないと皆に先を促した。

「なんでもいいけど、さっさと行きましょ。」

その後、ラゴウの屋敷で天候を操る魔導器を発見し、フレン達騎士団を呼ぶために暴れまわったりしたのだけれども、ラゴウ達が船に逃げたのを追う際に、パティと、そして道中で助けた町の子供とは別れることとなった。
しかし何故だかユーリは、彼女たちとはまた会えそうだと感じたのだった。



スキット

あのとき

「パティ〜〜!!」

パティ「〜〜!!」

エステル「わぁっ、感動の再会ですね!」

「はいっ!わたし、もう、パティが氷漬けにされてないかとか熱湯風呂に入れられてないかとかネズミ捕りに捕まってないかとか…」

エステル「・・・」

「儀式に巻き込まれてないかとか一発芸強要されていないかとかもう心配で心配で…」

パティ「は心配症すぎるのじゃ!あのときと比べたらこのくらい、ジャコの目よりも小さなことなのじゃ!」

「うん、そうだね!あのときはホント、人生終わったかと思った…うん、何事も無くて良かった!」

エステル「あ、あのとき…?」

リタ「バカっぽい…ほら、行きましょ、フレン達待たせてるんだから。」

エステル「は、はい…でも、気になります…。あのとき…?」


お互い様 (お別れ後)

「おもしろい人たちだったね。」

パティ「うむ。サンゴ礁に住む魚達のように、いろんな種類の人や犬が集まっておったのじゃ。」

「戦闘できる人や犬のサラダボウルってかんじ?いや、坩堝ともいうかな・・・」

パティ「相変わらずは、意味のわからんたとえばかり言うのじゃ」

「パティほどでもないよ」